コンテンツにスキップ

準備6 指数関数と対数

スイッチを入れた直後の電圧や電流の変化(過渡現象)は、指数関数で表されます。電気回路III の前半で繰り返し使うので、ここで意味を確認します。

「いまの量に比例して減る」変化

熱いお茶は、はじめは速く冷め、室温に近づくほどゆっくり冷めます。冷める速さが「室温との温度差」に比例しているからです。このように、変化の速さがその時点の量に比例する 現象は、身のまわりに多くあります。

この種の変化を表すのが 指数関数 です。「一定の時間がたつごとに、一定の割合になる」という性質を持ちます。1 時間ごとに半分になる量は、2 時間後に \(\frac{1}{4}\)、3 時間後に \(\frac{1}{8}\) になります。

ネイピア数 e

指数関数の底(何倍ずつ変わるかの基準)には、\(e = 2.718\cdots\) という数を使います。この数を選ぶ理由は、微分したときの形が最も簡単になるからです。

\[ \frac{d}{dt} e^{at} = a\, e^{at} \]

\(e^{at}\) を微分すると、自分自身の \(a\) 倍になります。「変化の速さが自分自身に比例する」という性質が、そのまま式になっています。\(a\) が負なら減衰、正なら増大です。

時定数

回路の過渡現象では、減衰の速さを 時定数 \(\tau\)(タウ)で表し、\(e^{-t/\tau}\) の形に書きます。

時定数ごとの値を覚えておくと、計算せずに変化のようすを見積もれます。

経過時間 \(e^{-t/\tau}\)(残り) \(1 - e^{-t/\tau}\)(到達した割合)
\(\tau\) 0.368 0.632
\(2\tau\) 0.135 0.865
\(3\tau\) 0.050 0.950
\(5\tau\) 0.007 0.993

\(5\tau\) たてば、変化はほぼ終わったとみなせます。

時定数にはもう 1 つの読み方があります。出発した瞬間の勢いがそのまま続いたとすると、ちょうど \(\tau\) 秒で終点に届きます(シミュレータの点線)。実際には途中で勢いが弱まるので、\(\tau\) 秒では 63% までしか届きません。

指数の計算規則

\[ e^{a} \times e^{b} = e^{a+b}, \qquad \frac{e^{a}}{e^{b}} = e^{a-b}, \qquad (e^{a})^{n} = e^{na}, \qquad e^{0} = 1 \]

かけ算が指数の足し算になります。準備1の \(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\) と同じ規則です。

対数:指数の逆

「\(e\) を何乗すると \(x\) になるか」を表す数を、\(x\) の 自然対数 と呼び、\(\ln x\) と書きます(\(\log_e x\) と同じ意味です)。

\[ y = e^{x} \quad\Longleftrightarrow\quad x = \ln y \]

対数は、指数関数の式から時間を求めるときに使います。

例:コンデンサの電圧が電源の 90% に達する時間

\(1 - e^{-t/\tau} = 0.9\) を解きます。\(e^{-t/\tau} = 0.1\) の両辺の自然対数をとると \(-\dfrac{t}{\tau} = \ln 0.1 = -2.30\)。したがって \(t = 2.30\,\tau\) です。

よく使う値は \(\ln 2 = 0.693\)、\(\ln 10 = 2.303\) です。量が半分になる時間(半減期)は \(0.693\,\tau\) です。

底を 10 にした対数を 常用対数 と呼び、\(\log_{10} x\) と書きます。「10 を何乗すると \(x\) になるか」で、\(\log_{10} 1000 = 3\) です。周波数特性のグラフの横軸(1 目盛りで 10 倍)は、この常用対数の目盛りです。

対数の計算規則は、指数の規則を裏返したものです。

\[ \ln(ab) = \ln a + \ln b, \qquad \ln\frac{a}{b} = \ln a - \ln b, \qquad \ln a^{n} = n\ln a \]

デシベル

電圧や電力の比を、常用対数を使って表した単位が デシベル(dB)です。

\[ \text{電圧比・電流比:}\ 20\log_{10}\frac{V_2}{V_1}\ [\text{dB}], \qquad \text{電力比:}\ 10\log_{10}\frac{P_2}{P_1}\ [\text{dB}] \]
電圧比 1 \(1/\sqrt{2}\) 1/2 1/10 1/100 10
dB 0 −3 −6 −20 −40 +20

フィルタの遮断周波数や共振回路の帯域幅で出てくる「\(1/\sqrt{2}\) 倍」は、−3 dB にあたります。電力でいえば半分です。

複素数の指数関数

指数が虚数のときは、電気回路I 第8回のオイラーの公式

\[ e^{j\theta} = \cos\theta + j\sin\theta \]

が成り立ちます。実数の指数 \(e^{\sigma t}\) は増大・減衰を、虚数の指数 \(e^{j\omega t}\) は回転(振動)を表します。両方を合わせた \(e^{(\sigma + j\omega)t}\) は「減衰しながら振動する」波で、電気回路III 第4回のラプラス変換は、回路の応答をこの形の波の組み合わせとして扱う方法です。