第5回 ラプラス変換による回路解析¶
この回の位置づけ
シラバス(電気回路III):過渡現象4(教科書 続 電気回路の基礎 4章 4.3 続き、配布資料)。ラプラス変換による回路解析について学ぶ。
この回の目標:回路素子を \(s\) の関数のインピーダンスに置きかえ、微分方程式を立てずに過渡現象を解ける。
回路を直接 s の世界に移す¶
第4回では、微分方程式を立ててからラプラス変換しました。この回では、微分方程式を立てる段階を省き、回路図そのものを \(s\) の世界に移してから 解きます。電気回路I で、回路図の素子をインピーダンスに書きかえてからフェーザで解いたのと同じ進め方です。
各素子の電圧と電流の関係をラプラス変換します。大文字 \(V(s)\)、\(I(s)\) は、電圧と電流のラプラス変換です。
抵抗:\(v = Ri\) はそのまま \(V(s) = R\,I(s)\)。
インダクタ:\(v = L\dfrac{di}{dt}\) に微分の性質を使うと
コンデンサ:\(i = C\dfrac{dv}{dt}\) から \(I(s) = sC\,V(s) - C\,v(0)\)。\(V(s)\) について解くと
初期値が 0 の場合、3 つの素子はどれも「\(V(s) = Z(s)\,I(s)\)」の形になります。
| 素子 | 交流(フェーザ) | \(s\) 領域 | 初期値がある場合に加わるもの |
|---|---|---|---|
| 抵抗 | \(R\) | \(R\) | なし |
| インダクタ | \(j\omega L\) | \(sL\) | 直列の電圧源 \(L\,i(0)\)(電流を保つ向き) |
| コンデンサ | \(\dfrac{1}{j\omega C}\) | \(\dfrac{1}{sC}\) | 直列の電圧源 \(\dfrac{v(0)}{s}\) |
\(j\omega\) を \(s\) に置きかえるだけ です。この \(Z(s)\) を使えば、直列・並列の合成、分圧・分流、網目電流法、テブナンの定理など、これまでの方法がすべて使えます。初期値は、表のとおり追加の電源として回路に書き込みます。
電源も変換します。\(t = 0\) で加える直流電圧 \(E\) は \(\dfrac{E}{s}\) です。
解析の手順¶
- \(t < 0\) の回路から、初期値 \(i_L(0)\)、\(v_C(0)\) を求める。
- \(t \ge 0\) の回路を \(s\) 領域の回路に描きかえる(素子を \(R\)、\(sL\)、\(\dfrac{1}{sC}\) に、電源をラプラス変換に、初期値を電源として追加)。
- 直流回路と同じ方法で、求めたい量を \(s\) の関数として求める。
- 部分分数に分解して逆変換する。
R–C 回路¶
\(R\) と \(C\) の直列回路に、\(t = 0\) で直流電圧 \(E\) を加えます(初期電圧 0)。\(s\) 領域では、電源 \(\dfrac{E}{s}\)、インピーダンス \(R + \dfrac{1}{sC}\) の直列回路なので
変換表の \(\dfrac{1}{s + a} \to e^{-at}\) から
コンデンサの電圧は、分圧の式で求めます。
第3回で微分方程式から求めた結果と一致します。極は \(s = -\dfrac{1}{RC}\) で、時定数の逆数にマイナスをつけた値です。
初期電圧がある場合¶
コンデンサがはじめに \(V_0\) に充電されているとします。\(s\) 領域では、コンデンサに直列に電圧源 \(\dfrac{V_0}{s}\) が加わります。この電源は外の電源 \(\dfrac{E}{s}\) と逆向きに働くので
です。充電に使われるのは、電源電圧と初期電圧の差です。\(E = 0\) とすれば放電の式になります。
R–L 回路¶
\(R\) と \(L\) の直列回路に直流電圧 \(E\) を加えます(初期電流 0)。
部分分数に分解すると(\(\dfrac{1}{s}\) の係数は \(s = 0\) を代入して \(\dfrac{E}{L}\cdot\dfrac{L}{R} = \dfrac{E}{R}\))
シミュレータの初期設定「\(K / (s(s + a))\)」が、この形です。
R–L–C 直列回路¶
分母を 0 にする \(s\) は、第3回の特性方程式 \(s^2 + 2\alpha s + \omega_0^2 = 0\) の根そのものです。\(s\) 領域のインピーダンス \(Z(s) = R + sL + \dfrac{1}{sC}\) を 0 にする \(s\) が、回路の過渡応答の形を決めています。
極の種類に応じて、逆変換の形が決まります。
減衰振動(極が複素数 \(-\alpha \pm j\omega_d\)):分母を平方完成して \((s + \alpha)^2 + \omega_d^2\)。
過減衰(極が実数 \(s_1\)、\(s_2\)):分母を \((s - s_1)(s - s_2)\) と因数分解して部分分数に。
臨界減衰(重根 \(s = -\alpha\)):分母が \((s + \alpha)^2\)。
数値例
\(E = 10\) V、\(R = 2\) Ω、\(L = 1\) H、\(C = 0.2\) F とします。
極は \(s = -1 \pm j2\)。減衰の時定数が 1 s、振動の角周波数が 2 rad/s(周期 3.14 s)です。第4回の極のシミュレータで \(\sigma = -1\)、\(\omega = 2\) とすると、この波形の形(位相は 90° ずれた cos)を確かめられます。
伝達関数とフェーザ法の関係¶
初期値をすべて 0 としたとき、出力の変換と入力の変換の比を 伝達関数 と呼びます。
RC 回路でコンデンサの電圧を出力とすると、\(H(s) = \dfrac{1}{1 + sCR}\) です。
この式で \(s = j\omega\) と置くと、\(\dfrac{1}{1 + j\omega CR}\) になります。これは、電気回路I 第11回と電気回路II 第13回で求めた周波数応答関数です。
フェーザ法は、ラプラス変換で \(s = j\omega\) と置いた特別な場合 です。\(s = \sigma + j\omega\) のうち、減衰を表す \(\sigma\) を 0 にして、持続する正弦波だけを考えたものにあたります。伝達関数 \(H(s)\) が 1 つあれば、\(s = j\omega\) と置いて周波数特性が、極を調べて過渡応答の形が、どちらもわかります。回路の定常状態と過渡現象は、同じ 1 つの関数の 2 つの面です。
まとめ¶
- 素子を \(R\)、\(sL\)、\(1/(sC)\) に置きかえれば、過渡現象も直流回路と同じ方法で解ける。
- 初期値は、インダクタでは \(L\,i(0)\)、コンデンサでは \(v(0)/s\) の電圧源として加える。
- \(Z(s) = 0\) となる \(s\)(極)が、過渡応答の時定数と振動を決める。
- \(s = j\omega\) と置くと、交流のフェーザ法になる。