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準備5 行列と行列式

電気回路II の後半(回路網方程式、2ポート回路)では、連立方程式をまとめて書くために行列を使います。行列は「数を長方形に並べて、ひとかたまりとして扱う書き方」で、新しい計算の考え方が増えるわけではありません。

行列は連立方程式の省略記法

準備2で扱った連立方程式

\[ \begin{cases} 8 I_1 - 6 I_2 = 10 \\ -6 I_1 + 10 I_2 = -4 \end{cases} \]

は、係数、未知数、右辺を別々にまとめて次のように書けます。

\[ \begin{bmatrix} 8 & -6 \\ -6 & 10 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} I_1 \\ I_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 10 \\ -4 \end{bmatrix} \]

数を並べたかたまりを 行列 と呼びます。横の並びが 行、縦の並びが 列 です。左の行列は 2 行 2 列、未知数と右辺は 2 行 1 列で、縦 1 列だけの行列を ベクトル とも呼びます。

時刻表が「駅」と「列車」の 2 つの見出しで数を整理しているのと同じで、行列は「何番目の式の」「何番目の未知数の係数か」という 2 つの番号で数を整理したものです。

行列のかけ算

行列とベクトルのかけ算は、連立方程式の左辺が再現されるように決められています。行列の各行と、ベクトルを、順にかけて足します。

\[ \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x \\ y \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} ax + by \\ cx + dy \end{bmatrix} \]

行列どうしのかけ算も同じ規則で、積の \(i\) 行 \(j\) 列は「左の行列の \(i\) 行」と「右の行列の \(j\) 列」を順にかけて足したものです。

\[ \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix} \begin{bmatrix} p & q \\ r & s \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} ap + br & aq + bs \\ cp + dr & cq + ds \end{bmatrix} \]

かける順番を入れかえてはいけない

ふつうの数では \(2 \times 3 = 3 \times 2\) ですが、行列では一般に \(AB \neq BA\) です。「靴下をはいてから靴をはく」と「靴をはいてから靴下をはく」が違う結果になるのと同じで、行列は「操作」を表しており、操作の順番には意味があります。電気回路II 第13回の縦続接続では、回路をつなぐ順番がそのままかけ算の順番になります。

行列のたし算は、同じ位置の数どうしを足すだけです。

行列式

2 行 2 列の行列から、次の規則で 1 つの数を作ります。これを 行列式 と呼び、\(|A|\) または \(\det A\) と書きます。

\[ \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} = ad - bc \]

右下がりの対角の積から、左下がりの対角の積を引きます(たすきがけ)。

行列式が 0 でないとき、連立方程式はただ 1 組の解を持ちます。行列式が 0 のときは、2 つの式が実質的に同じ内容(グラフでは平行な 2 本の直線)になっていて、解が決まりません。

3 行 3 列の行列式は、右下がりの 3 本の積を足し、左下がりの 3 本の積を引きます(サラスの方法)。

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} \end{vmatrix} = a_{11}a_{22}a_{33} + a_{12}a_{23}a_{31} + a_{13}a_{21}a_{32} - a_{13}a_{22}a_{31} - a_{12}a_{21}a_{33} - a_{11}a_{23}a_{32} \]

クラメルの公式

連立方程式の解は、行列式の比として書けます。\(k\) 番目の未知数は

\[ x_k = \frac{\text{係数行列の } k \text{ 列目を右辺で置きかえた行列式}}{\text{係数行列の行列式}} \]

です。上の例では

\[ I_1 = \frac{\begin{vmatrix} 10 & -6 \\ -4 & 10 \end{vmatrix}}{\begin{vmatrix} 8 & -6 \\ -6 & 10 \end{vmatrix}} = \frac{100 - 24}{80 - 36} = \frac{76}{44} \approx 1.73 \]

となり、準備2の結果と一致します。未知数が 3 個になっても同じ形で使えます。

逆行列

ふつうの数で \(ax = b\) を解くには、両辺に \(a\) の逆数 \(\frac{1}{a}\) をかけます。行列でこの逆数にあたるものが 逆行列 \(A^{-1}\) です。2 行 2 列では

\[ \begin{bmatrix} a & b \\ c & d \end{bmatrix}^{-1} = \frac{1}{ad - bc} \begin{bmatrix} d & -b \\ -c & a \end{bmatrix} \]

となります。対角の 2 つを入れかえ、残りの 2 つの符号を変え、行列式で割ります。\(A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b}\) の解は \(\boldsymbol{x} = A^{-1}\boldsymbol{b}\) です。

電気回路II 第12回で、Z パラメータの行列と Y パラメータの行列が互いに逆行列の関係にあることを使います。「電圧 = 抵抗 × 電流」と「電流 = コンダクタンス × 電圧」が逆数の関係にあることを、行列に広げたものです。