第2回 電源と回路素子¶
この回の位置づけ
シラバス:直流回路②(教科書 第2章 2.1–2.6、第3章 3.1)。直流と交流の概念、理想電圧源と理想電流源、回路素子(抵抗、インダクタ、コンデンサ)の基本性質、定常状態と過渡現象の基本概念について学ぶ。
必要な準備:準備4 変化の速さと積み重ね
この回の目標:直流と交流の違い、理想電源と実際の電源の違い、抵抗・インダクタ・コンデンサがそれぞれ何をする素子かを説明できる。
直流と交流¶
電流や電圧が時間によらず一定の向きと大きさを保つものを 直流(DC)と呼びます。向きが周期的に入れかわるものを 交流(AC)と呼びます。電池から得られるのは直流、家庭のコンセントから得られるのは交流です。
直流では電荷が一方向へ進み続けます。交流では電荷がその場で行ったり来たりするだけで、遠くまで進みません。それでもエネルギーは伝わります。のこぎりを前後に動かすだけで木が切れるのと同じで、往復する動きでも相手に仕事をすることができます。
この講義の前半(第7回まで)は直流、後半(第8回から)は交流を扱います。
理想電源と実際の電源¶
第1回で、電圧源は「相手が何であっても電圧を一定に保つ電源」、電流源は「相手が何であっても電流を一定に保つ電源」だと説明しました。この 2 つは理想化されたモデルで、理想電圧源、理想電流源 と呼びます。
実際の乾電池は、大きな電流を取り出すと端子の電圧が下がります。古い電池で懐中電灯が暗くなるのはこのためです。この性質は、理想電圧源 \(E\) に小さな抵抗 \(r\) が直列に入っていると考えると説明できます。この \(r\) を 内部抵抗 と呼びます。
負荷に電流 \(I\) が流れると、内部抵抗で \(rI\) だけ電圧が下がり、外に出てくる電圧(端子電圧)は
になります。負荷抵抗を小さくして電流を増やすほど、端子電圧が下がることをシミュレータで確かめてください。内部抵抗を 0 にすると、赤い線は水平になり、理想電圧源に一致します。
2 つの理想電源の性質を比べます。
| 理想電圧源 | 理想電流源 | |
|---|---|---|
| 一定に保つ量 | 電圧 | 電流 |
| 相手によって変わる量 | 電流 | 電圧 |
| 内部抵抗 | 0 | 無限大 |
| 働きを止めたとき | 電圧 0 = 導線でつないだ状態(短絡) | 電流 0 = 線を切った状態(開放) |
最後の行は第6回の重ね合わせの理とテブナンの定理で使います。
3 つの回路素子¶
電気回路の基本的な素子は、抵抗、インダクタ、コンデンサの 3 種類です。それぞれが電圧と電流の間に異なる関係を作ります。
抵抗 R:流れをさまたげ、熱に変える¶
抵抗 は電流の流れをさまたげる素子です。記号 \(R\)、単位 Ω(オーム)で表します。電圧と電流は比例し、その関係がオームの法則です(第3回で詳しく扱います)。
抵抗は受け取った電気エネルギーをすべて熱に変えます。電気ストーブやトースターはこの性質を利用しています。水のたとえでは細い管にあたり、水が通るときの摩擦でエネルギーが失われます。
コンデンサ C:電荷をためる¶
コンデンサ(キャパシタ)は、向かい合った 2 枚の金属板に電荷をためる素子です。ためられる電荷 \(Q\) は、かけた電圧 \(v\) に比例します。
比例定数 \(C\) を 静電容量(キャパシタンス)と呼び、単位は F(ファラド)です。1 F は非常に大きな値なので、実際の部品では μF や pF を使います。
水のたとえでは、コンデンサは タンク です。水位が電圧、たまった水の量が電荷、タンクの底面積が静電容量にあたります。底面積が大きいタンクは、同じ水位でも多くの水をためられます。
電流は電荷の変化の速さなので、\(Q = Cv\) の両辺の変化の速さをとると
が得られます。この式は「コンデンサに電流が流れるのは、電圧が変化している間だけ」ということを表しています。タンクに水が流れ込むのは、水位が上がっている間だけです。
下のシミュレータでは、コンデンサにかける電圧を「増やす → 一定に保つ → 減らす」の順に動かします。電流が流れるのは電圧を動かしている間だけで、一定に保っている間は 0 になることを確かめてください。
直流に対するコンデンサ
直流の電圧をかけて十分に時間がたつと、電圧は変化しなくなるので \(\dfrac{dv}{dt} = 0\) となり、電流は 0 になります。直流の定常状態では、コンデンサは線が切れているのと同じ(開放) です。満水のタンクにはそれ以上水が入らないことに対応します。
インダクタ L:電流の変化をさまたげる¶
インダクタ(コイル)は、導線を巻いた素子です。電流が流れると磁界ができ、その磁界が電流の変化をさまたげる向きに電圧を生みます。
比例定数 \(L\) を インダクタンス と呼び、単位は H(ヘンリー)です。
水のたとえでは、インダクタは管の途中に置いた 重い水車(はずみ車) です。重い水車は止まっている状態から急には回り出さず、回っている状態から急には止まりません。インダクタも同じで、流れている電流を保とうとします。電流を急に変えようとするほど、大きな電圧が必要になります。
式だけでは動きを想像しにくいので、インダクタに流す電流を外から決めた通りに動かし、そのとき両端にどのような電圧が現れるかを時間を追って見ます。
電流を「増やす → 一定に保つ → 減らす」と動かすと、インダクタのふるまいは 3 つの段階に分かれます。
| 段階 | 電流 | 電圧 \(v = L\dfrac{di}{dt}\) | インダクタがしていること |
|---|---|---|---|
| 増やしている間 | 右上がり | 正の一定値 | 電流の増加をさまたげる向きに電圧を生む。電源はそれに逆らって押し、エネルギーが磁界に蓄えられる |
| 一定に保っている間 | 水平 | 0 | 何もしない(導線と同じ)。蓄えたエネルギーは保たれる |
| 減らしている間 | 右下がり | 負の一定値 | 電流を保とうとして逆向きの電圧を生む。蓄えたエネルギーを回路へ返す |
電圧を決めているのは電流の大きさではなく、電流のグラフの 傾き です。次の 3 点を、スライダを動かして確かめてください。
- 「変化にかける時間」を短くすると、同じだけ電流を変えるのに傾きが急になり、電圧が大きくなります。重い水車を短時間で加速するには大きな力が要るのと同じです。スイッチを切って電流を一瞬で 0 にしようとすると非常に大きな電圧が生じ、火花が飛ぶことがあるのはこのためです。
- \(L\) を大きくすると、同じ傾きでも電圧が大きくなります。水車が重くなることにあたります。
- 「電流の変え方」を正弦波にすると、電圧も正弦波になりますが、山の位置が 1/4 周期ずれます。電流が 0 を横切る瞬間に傾きが最大で、電流が山の頂上にある瞬間に傾きが 0 になるからです。このずれが、第9回で扱う「90° の位相差」です。
直流に対するインダクタ
直流の電流が流れて十分に時間がたつと、電流は変化しなくなるので \(\dfrac{di}{dt} = 0\) となり、電圧は 0 になります。直流の定常状態では、インダクタはただの導線と同じ(短絡) です。一定の速さで回っている水車は、流れをさまたげません。
3 つの素子の比較¶
| 抵抗 \(R\) | コンデンサ \(C\) | インダクタ \(L\) | |
|---|---|---|---|
| 関係式 | \(v = Ri\) | \(i = C\dfrac{dv}{dt}\) | \(v = L\dfrac{di}{dt}\) |
| 水のたとえ | 細い管 | タンク | 重い水車 |
| エネルギー | 熱として消費する | 電界にためる \(\frac{1}{2}Cv^2\) | 磁界にためる \(\frac{1}{2}Li^2\) |
| 急に変えられない量 | なし | 電圧 | 電流 |
| 直流の定常状態 | 抵抗のまま | 開放(切れた線) | 短絡(導線) |
抵抗はエネルギーを消費し、コンデンサとインダクタはエネルギーを一時的にためて後で返します。この違いは、第12回の有効電力と無効電力の区別につながります。
身のまわりでの 3 つの素子の役割¶
3 つの素子は、ほぼすべての電気製品の中に入っています。それぞれの使われ方は、上で述べた性質(熱に変える、電圧の変化をゆるやかにする、電流の変化をゆるやかにする)から説明できます。
抵抗の役割¶
| 役割 | 使われ方の例 | 利用している性質 |
|---|---|---|
| 熱や光に変える | 電気ストーブ、ドライヤー、トースター、白熱電球 | 流れた電流のエネルギーを熱にする(\(P = I^2 R\)) |
| 電流を制限する | LED に直列に入れる保護用の抵抗 | 同じ電圧でも、抵抗が大きいほど電流が小さい |
| 電圧を分ける | 音量つまみ(つまみを回すと抵抗の比が変わる) | 直列の抵抗は電圧を抵抗の比で分ける(第3回の分圧) |
| 変化を電気信号にする | 温度で抵抗が変わる部品を使った体温計やエアコンの温度センサ | 抵抗が変わると、分圧された電圧が変わる |
LED は、電池に直接つなぐと電流が流れすぎて壊れます。直列に抵抗を入れて電流を適切な大きさに抑えるのが、抵抗のもっとも基本的な使い方です。水道の蛇口を少しだけ開けて流量を絞るのと同じです。
コンデンサの役割¶
| 役割 | 使われ方の例 | 利用している性質 |
|---|---|---|
| 電圧のでこぼこをならす | スマートフォンの充電器や AC アダプタの内部 | 電圧は急に変われない。電圧が下がりかけると、ためた電荷を出して支える |
| ためて一気に出す | カメラのフラッシュ、AED(除細動器) | 時間をかけてためたエネルギーを短時間で放出できる |
| 直流を止めて交流だけ通す | オーディオ機器の信号の受け渡し、スピーカーの高音用ユニット | 直流には開放、周波数が高いほど通しやすい(第9回) |
| 触れたことを検出する | スマートフォンのタッチパネル | 指が近づくと静電容量がわずかに変わる |
充電器の中では、コンセントの交流を直流に直しています。直しただけの電圧は波打っていますが、コンデンサを並列につなぐと、電圧が高い間に電荷をため、低くなる間に放出するので、ほぼ一定の電圧になります。水道の途中にタンクを置くと、ポンプの勢いにむらがあっても蛇口から出る水が安定するのと同じです。
インダクタの役割¶
| 役割 | 使われ方の例 | 利用している性質 |
|---|---|---|
| 電流の急な変化を抑える | 電源コードや USB ケーブルについている円筒形のふくらみ(ノイズ除去用の部品) | 電流は急に変われない。周波数が高い成分ほど通しにくい(第9回) |
| エネルギーを一時的にためて電圧を変換する | 充電器、パソコンやスマートフォン内部の電源回路 | 電流を流してエネルギーを蓄え、スイッチを切りかえて別の電圧で取り出す |
| 高い電圧を作る | ガソリン車の点火装置、ガスコンロの点火 | 電流を急に切ると、大きな電圧が現れる(\(v = L\,di/dt\)) |
| 磁界を作って力や熱に変える | モーター、スピーカー、電磁石、IH 調理器 | コイルに電流を流すと磁界ができる |
| 離れたコイルに電力を伝える | 変圧器(電柱の上の装置)、ワイヤレス充電、IC カード | コイルが作る磁界の変化が、別のコイルに電圧を生む |
| 特定の周波数を選び出す | ラジオの選局 | コンデンサと組み合わせると共振する(第11回) |
インダクタの使い道は 2 系統に分かれます。1 つは「電流の変化をさまたげる」性質そのものを使うもの(表の上 3 行)で、この講義で扱う \(v = L\,di/dt\) の関係がそのまま働いています。もう 1 つは、コイルが作る磁界を外に取り出して使うもの(表の下の行)で、モーターや変圧器がこれにあたります。後者のしくみは電磁気学や続く科目で扱われますが、回路として見たときには、どちらも同じ「インダクタンス \(L\) を持つ素子」として計算できます。
3 つを組み合わせた例:スマートフォンの充電器¶
充電器は、コンセントの交流 100 V を直流 5 V 程度に変える装置で、3 つの素子がそれぞれの役割を受け持っています。
- 交流を一方向の流れに直した直後の、波打つ電圧を コンデンサ がならします。
- 高速で入り切りするスイッチと インダクタ(または変圧器)が、エネルギーを少しずつ受け渡して電圧を下げます。
- 出力の電圧を 抵抗 で分圧して測り、目標の電圧からずれていればスイッチの入り切りの割合を調整します。
- 出口でもう一度、コンデンサ と インダクタ が残った細かい変動を取り除きます。
定常状態と過渡現象¶
スイッチを入れた直後、回路の電圧や電流は時間とともに変化し、やがて一定の状態に落ち着きます。落ち着いた後の状態を 定常状態、そこに至るまでの変化を 過渡現象 と呼びます。蛇口を開けた直後に水の出方が安定するまでの短い時間にあたります。
抵抗とコンデンサを直列にして電池につなぐ回路で、過渡現象を見ます。
スイッチを入れた瞬間、コンデンサは空のタンクなので、電流が勢いよく流れ込みます。電荷がたまって電圧が上がるにつれ、電池との電圧の差が小さくなって電流は減り、最後にはコンデンサの電圧が電源電圧 \(E\) に等しくなって電流が止まります。
電圧の変化は次の式で表されます。
\(e\) は約 2.718 の定数です。式の形を覚えるよりも、\(\tau\)(タウ)の意味をつかんでください。\(\tau\) は 時定数 と呼ばれ、変化の速さの目安になる時間です。スイッチを入れてから \(\tau\) 秒後に最終値の約 63% に達し、\(5\tau\) 秒後にはほぼ最終値に達します。\(R\) か \(C\) を大きくすると \(\tau\) が長くなり、充電がゆっくりになることを確かめてください。細い管で大きなタンクを満たすには時間がかかる、という関係です。
インダクタと抵抗の回路でも、同じ形の変化が起こります。
インダクタは電流の変化をさまたげるので、スイッチを入れても電流はすぐには流れず、徐々に増えて \(E/R\) に落ち着きます。時定数は \(\tau = L/R\) です。
この講義で扱う回路解析は、ほぼすべて定常状態を対象にしています。直流回路(第3〜7回)では、十分に時間がたって電圧も電流も変化しなくなった状態を扱います。交流回路(第8回以降)では、同じ波形が繰り返される状態を定常状態と呼びます。過渡現象の詳しい解析は、続く科目で扱われます。
まとめ¶
- 直流は向きと大きさが一定、交流は向きが周期的に入れかわる。
- 実際の電源は「理想電圧源+内部抵抗」で表せ、端子電圧は \(V = E - rI\)。
- 抵抗は \(v = Ri\)、コンデンサは \(i = C\,dv/dt\)、インダクタは \(v = L\,di/dt\)。
- 直流の定常状態では、コンデンサは開放、インダクタは短絡とみなせる。
- 過渡現象の速さは時定数(\(RC\) または \(L/R\))で決まる。
練習¶
確認:直流電源に、抵抗 10 Ω とコンデンサを直列につないで十分に時間がたちました。抵抗の両端の電圧は何 V ですか
0 V です。定常状態ではコンデンサが開放と同じになり、電流が流れません。電流が 0 なので、抵抗の電圧降下 \(Ri\) も 0 です。電源電圧はすべてコンデンサにかかっています。