第8回 三相交流と Y・Δ 結線¶
この回の位置づけ
シラバス(電気回路III):多相交流1(教科書 電気回路の基礎 23章 23.1〜23.5、配布資料)。三相交流の基礎として Y 結線・Δ 結線について学ぶ。
必要な準備:電気回路I 第8回のフェーザ
この回の目標:対称三相交流の性質を説明でき、Y 結線と Δ 結線での相電圧・線間電圧、相電流・線電流の関係を導ける。
三相交流とは¶
これまで扱ってきた交流は、1 つの電源と 2 本の電線で電力を送る 単相交流 でした。発電所から工場やビルへ電力を送るときには、大きさと周波数が同じで、位相が 120° ずつずれた 3 つの交流を組にした 三相交流 が使われます。電柱の上の電線が 3 本 1 組になっているのは、このためです。
3 つの相を a 相、b 相、c 相と呼びます。a 相を基準にすると、各相の起電力は
フェーザで書くと
です。大きさが等しく、位相が 120° ずつずれた三相交流を 対称三相交流 と呼びます。a → b → c の順に山が来る、この順番を 相順 と呼びます。
3 つの和が 0 になる¶
対称三相交流には、次の性質があります。
フェーザ図では、3 本の矢印が 120° ずつ開いていて、順につなぐと正三角形になって出発点に戻ります。3 人が 120° ずつ違う方向へ同じ力で綱を引くと、結び目が動かないのと同じです。
この性質が、三相交流の利点のもとになっています。単相の回路を 3 組作ると電線が 6 本必要ですが、帰りの 3 本を 1 本にまとめると、そこを流れる電流は 3 つの和で 0 になります。電流が流れない線は省けるので、3 本の電線で 3 組分の電力を送れます。
三相交流が使われる理由
演算子 a¶
120° の回転を表す複素数を \(a\) と書くと、式が簡単になります。
\(j\) が 90° の回転を表したのと同じで、\(a\) をかけると 120° 進み、\(a^2\) をかけると 240° 進みます(120° 遅れるのと同じ)。対称三相起電力は \(\dot{E}_a\)、\(\dot{E}_b = a^2\dot{E}_a\)、\(\dot{E}_c = a\dot{E}_a\) と書けます。
2 つのつなぎ方¶
3 つの電源(または 3 つの負荷)のつなぎ方には、2 種類あります。
- Y 結線(星形結線、スター結線):3 つの素子の一端を 1 点にまとめ、他端を 3 本の線につなぐ。まとめた点を 中性点 と呼ぶ。
- Δ 結線(三角結線、デルタ結線):3 つの素子を輪になるようにつなぎ、3 つのつなぎ目から線を引き出す。
電圧と電流について、2 種類の量を区別します。
| 意味 | |
|---|---|
| 相電圧 | 1 つの相(電源または負荷の 1 個の素子)にかかる電圧 |
| 線間電圧 | 3 本の線のうち 2 本の間の電圧 |
| 相電流 | 1 つの相の素子を流れる電流 |
| 線電流 | 線を流れる電流 |
Y 結線¶
各素子は線に直列につながっているので、線を流れる電流はそのまま素子を流れます。
線間電圧は、2 つの相電圧の 差 です。線 a と線 b の間の電圧は、中性点から見た a の電位と b の電位の差なので
です。フェーザ図で \(\dot{E}_a\) に \(-\dot{E}_b\) をつなぐと、二等辺三角形(頂角 120°)ができ、その底辺が \(\dot{V}_{ab}\) になります。
線間電圧の大きさは相電圧の \(\sqrt{3}\) 倍で、位相は 30° 進みます。 残りの 2 つも同様で、線間電圧もまた対称三相になります。
\(\sqrt{3}\) と 30° が出てくる理由
\(\dot{E}_a = E\)、\(\dot{E}_b = E\angle(-120°) = E\left(-\dfrac{1}{2} - j\dfrac{\sqrt{3}}{2}\right)\) なので
大きさは \(E\sqrt{\dfrac{9}{4} + \dfrac{3}{4}} = \sqrt{3}E\)、偏角は \(\tan^{-1}\dfrac{\sqrt{3}/2}{3/2} = \tan^{-1}\dfrac{1}{\sqrt{3}} = 30°\) です。
Δ 結線¶
各素子は 2 本の線の間に直接つながっているので
です。線電流は、つなぎ目で 2 つの相電流に分かれます。線 a の電流は、a–b 間の素子へ流れ込む電流 \(\dot{I}_{ab}\) から、c–a 間の素子から流れてくる電流 \(\dot{I}_{ca}\) を引いたものです。
Y 結線の線間電圧と同じ形の引き算なので、結果も同じ形になります。
シミュレータで「見る関係」を切りかえて、矢印の作り方が Y 結線の電圧と同じであることを確かめてください。
Y 結線と Δ 結線の比較¶
| Y 結線 | Δ 結線 | |
|---|---|---|
| 電圧 | \(V_l = \sqrt{3}\,V_p\) | \(V_l = V_p\) |
| 電流 | \(I_l = I_p\) | \(I_l = \sqrt{3}\,I_p\) |
| 中性点 | ある(中性線を引き出せる) | ない |
電圧と電流の役割が、ちょうど入れかわっています。
身のまわりの電圧
日本の低圧の三相電源は、線間電圧 200 V が一般的です(動力用)。Y 結線で中性線を引き出した 400 V 級の配電では、線間電圧 400 V と相電圧 \(400/\sqrt{3} = 231\) V の両方が使えます。
家庭に来ている「単相 3 線式 100 V / 200 V」は、三相のうちの 1 相を変圧器で取り出し、二次側の中点を接地したものです。中性線と外側の線の間が 100 V、外側の線どうしの間が 200 V で、これは位相が 180° 違う 2 つの電圧なので、三相の \(\sqrt{3}\) 倍ではなく、2 倍の関係になります。
Δ 結線の電源に循環電流が流れない理由¶
3 つの電源を輪につなぐと、輪の中で電源どうしが短絡されているように見えます。しかし、対称三相起電力では \(\dot{E}_a + \dot{E}_b + \dot{E}_c = 0\) なので、輪を一周したときの起電力の合計が 0 で、電流は循環しません。起電力が対称でなくなると(大きさや位相がずれる、あるいは 1 つを逆向きにつなぐと)、合計が 0 でなくなり、大きな循環電流が流れます。
まとめ¶
- 対称三相交流は、大きさが等しく位相が 120° ずつずれた 3 つの交流。3 つの和は常に 0。
- Y 結線:\(V_l = \sqrt{3}V_p\)(30° 進み)、\(I_l = I_p\)。
- Δ 結線:\(V_l = V_p\)、\(I_l = \sqrt{3}I_p\)(30° 遅れ)。