準備4 変化の速さと積み重ね¶
コイルとコンデンサの性質は、「電流や電圧がどれだけ速く変化しているか」で決まります。変化の速さを表す道具が微分、変化を積み重ねた量を表す道具が積分です。この講義では計算の技術は必要なく、意味がわかれば足ります。
微分は「その瞬間の変化の速さ」¶
車の速度計は、その瞬間に位置がどれだけの速さで変わっているかを示しています。位置を時間のグラフに描くと、速度はグラフの 傾き にあたります。坂が急なほど速く、平らなら止まっています。
ある量 \(f\) の「時間に対する変化の速さ」を
と書きます。\(d\) は「ごくわずかな変化」を表す記号で、「わずかな時間 \(dt\) の間に \(f\) が \(df\) だけ変わった」ことを割り算の形で表しています。これを \(f\) の 微分 と呼びます。
スライダを動かすと、赤い線(接線)の傾きが時刻ごとに変わります。山の頂上と谷底では傾きが 0、いちばん急に上っている場所で傾きが最大になります。
このシミュレータから、交流回路で使う事実を 1 つ読み取れます。\(\sin\) の波の傾きを記録していくと、\(\cos\) の波になります。 準備3で見たとおり、cos の波は sin の波を 90° 進めたものです。「正弦波を微分すると、位相が 90° 進んだ正弦波になる」という性質が、第9回でコイルとコンデンサの位相のずれとして現れます。
角周波数 \(\omega\) で振動する波では、変化が \(\omega\) 倍速くなるので、傾きも \(\omega\) 倍になります。
積分は「積み重ねた合計」¶
蛇口から出る水の勢いが時間とともに変わるとき、バケツにたまった水の量は「各瞬間の勢い × 短い時間」を足し合わせたものです。グラフでは、勢いの曲線と横軸にはさまれた 面積 にあたります。この足し合わせを 積分 と呼び、\(\int\) という記号で書きます。
シミュレータの「見るもの」を「面積(積分)」に切りかえると、0 から時刻 \(t\) までの面積が下のグラフに表示されます。
積分は微分の逆の操作です。位置を微分すると速度になり、速度を積分すると位置(進んだ距離)に戻ります。
電気回路での使いどころ¶
この講義で微分と積分が現れる場面は、次の 3 つです。
| 関係 | 式 | 日常のたとえ |
|---|---|---|
| 電流と電荷 | \(I = \dfrac{dQ}{dt}\) | 水の流れの勢いは、たまった水量の増える速さ |
| コンデンサ | \(i = C\dfrac{dv}{dt}\) | タンクの水位が速く変わるほど、流れ込む水は多い |
| コイル | \(v = L\dfrac{di}{dt}\) | 重い車輪の回転を急に変えるほど、大きな力がいる |
第2回でこの式の意味を説明し、第9回で交流に当てはめます。第9回以降は、微分の計算を「\(j\omega\) をかける」という複素数のかけ算に置きかえるので、微分の計算そのものを行う場面はありません。