第3回 変圧器結合回路¶
この回の位置づけ
シラバス(電気回路II):変圧器結合回路(教科書 第19章 19.1–19.3)。電磁誘導回路の結合度・結合係数、理想変圧器、インピーダンス整合、変圧器結合回路について学ぶ。
この回の目標:結合係数と理想変圧器の性質を説明でき、変圧器を使ったインピーダンス整合の巻数比を求められる。
結合係数¶
一次コイルが作った磁束のうち、二次コイルを貫くのは一部です。残りは二次コイルを通らずに外へもれます(漏れ磁束)。2 つのコイルの結びつきの強さを、0 から 1 の数で表したものが 結合係数 \(k\) です。
\(k = 0\) は磁束をまったく共有していない状態、\(k = 1\) は一方のコイルが作った磁束がすべて他方を貫く状態(密結合)です。相互インダクタンスは \(\sqrt{L_1 L_2}\) を超えられません。
鉄心に 2 つのコイルを巻くと、磁束が鉄心の中に集中するので、\(k\) は 1 に近づきます。これが 変圧器(トランス)です。
理想変圧器¶
次の条件を満たす、理想化した変圧器を 理想変圧器 と呼びます。
- 結合係数が 1(漏れ磁束がない)
- コイルのインダクタンスが十分に大きい
- コイルの抵抗や鉄心での損失がない
一次コイルの巻数を \(N_1\)、二次コイルの巻数を \(N_2\) とし、その比 \(a = \dfrac{N_1}{N_2}\) を 巻数比 と呼びます。理想変圧器には次の関係があります。
電圧は巻数に比例し、電流は巻数に反比例します。 電圧の関係は、両方のコイルを同じ磁束が貫いていて、1 巻きあたりに生じる電圧が共通であることから出てきます。電流の関係は、損失がなく、一次側に入る電力 \(V_1 I_1\) と二次側から出る電力 \(V_2 I_2\) が等しいことから出てきます。
たとえ:自転車のギア
変圧器は、自転車のギアや、てこにあたります。ギアを変えると、ペダルを踏む力と回す速さの組み合わせが変わりますが、力 × 速さ(仕事率)は変わりません。変圧器も、電圧を上げれば電流が下がり、電圧 × 電流(電力)は変わりません。電力を増やす装置ではなく、電圧と電流の組み合わせを変える装置です。
発電所から家庭まで電気を送るとき、途中で電圧を数十万 V まで上げるのは、同じ電力を小さい電流で送るためです。電流が小さければ、送電線の抵抗で失われる電力(\(I^2 R\))が小さくなります。家庭の近くの電柱の上にある変圧器が、これを 100 V や 200 V に下げています。
インピーダンスの変換¶
二次側に負荷 \(\dot{Z}_L\) をつなぐと、一次側から見たインピーダンスは
となります。電源からは、負荷が \(a^2\) 倍のインピーダンスに見えます。変圧器は、インピーダンスの大きさを変えて見せる装置でもあります。
インピーダンス整合¶
電気回路I 第3回で、負荷抵抗が電源の内部抵抗に等しいとき、負荷の電力が最大になることを学びました。しかし、電源の内部抵抗と負荷抵抗は、別々の都合で決まっていて、等しいとは限りません。たとえば、内部抵抗が数百 Ω の増幅器で、8 Ω のスピーカーを鳴らす場合です。
間に理想変圧器を入れると、電源から見た負荷を \(a^2 R_L\) に変えられます。これを内部抵抗 \(R_s\) に合わせれば、最大電力の条件が満たされます。
このように、インピーダンスをそろえて電力を効率よく受け渡すことを インピーダンス整合 と呼びます。
初期設定は、内部抵抗 800 Ω の信号源と 8 Ω の負荷です。巻数比 1(直接つないだ場合と同じ)では、取り出せる電力は最大値の数 % にすぎません。巻数比を 10 にすると、電源から見た負荷が 800 Ω になり、最大の電力が負荷に渡ります。
内部インピーダンスが複素数 \(\dot{Z}_s = R_s + jX_s\) の場合の条件は、電気回路I 第13回で扱った共役整合です。変圧器で抵抗分の大きさを合わせ、リアクタンス分は逆符号のリアクタンスを加えて打ち消します。
変圧器結合回路¶
実際の変圧器は \(k < 1\) で、インダクタンスも有限です。その場合は、第2回の結合コイルの式を使います。一次側から見たインピーダンスは
でした(\(\dot{Z}_{11}\) は一次側の閉路のインピーダンス、\(\dot{Z}_{22}\) は二次側の閉路の全インピーダンス)。
この式で \(k = 1\)(\(M^2 = L_1 L_2\))とし、一次側の閉路がコイルだけ(\(\dot{Z}_{11} = j\omega L_1\))だとすると、理想変圧器の \(a^2\dot{Z}_L\) に、一次コイルのリアクタンス \(j\omega L_1\) が並列に入った形になります。ここで \(a^2 = L_1 / L_2\) です(インダクタンスは巻数の 2 乗に比例するため)。さらに \(L_1\) が十分に大きければ並列の枝は無視でき、理想変圧器に一致します。
実際の変圧器の等価回路は、理想変圧器に、漏れ磁束を表す直列のインダクタンス、巻線の抵抗、鉄心の損失を表す素子を付け加えた形で表します。詳細は電気機器の科目で扱われます。
まとめ¶
- 結合係数 \(k = M/\sqrt{L_1L_2}\) は 0 から 1。鉄心を使うと 1 に近づく。
- 理想変圧器:\(V_1/V_2 = a\)、\(I_1/I_2 = 1/a\)、電力は変わらない。
- 一次側から見た負荷は \(a^2\dot{Z}_L\)。
- \(a = \sqrt{R_s/R_L}\) に選ぶと、インピーダンス整合がとれて負荷の電力が最大になる。