コンテンツにスキップ

第11回 2ポート回路①(Z パラメータ)

この回の位置づけ

シラバス(電気回路II):2ポート回路①(教科書 続 第2章)。2ポート回路の Z パラメータ表現式と算定法を学び、2ポート回路の直列接続回路の解析法を学ぶ。

必要な準備:準備5 行列と行列式、第9回

この回の目標:2ポート回路の考え方を説明でき、与えられた回路の Z パラメータを求められる。

1ポート回路と 2ポート回路

端子の対(電流が入る端子と、同じ大きさの電流が出ていく端子の組)を ポート と呼びます。

これまで扱ってきた 2端子回路は、ポートが 1 つの 1ポート回路 です。中身がどれほど複雑でも、外から見た性質は 1 個のインピーダンス \(\dot{Z}\)(または、電源を含むならテブナン等価回路)で表せました。

増幅器、フィルタ、変圧器、送電線などは、信号や電力が入る入口と、出ていく出口を持っています。このような、ポートが 2 つある回路を 2ポート回路(2端子対回路、4端子回路)と呼びます。入口側をポート 1、出口側をポート 2 とします。

2ポート回路の考え方は、中身を見ずに、入口と出口の電圧・電流の関係だけで回路を表す ことです。自動販売機を使うとき、内部の機構を知らなくても「お金を入れると商品が出る」という入出力の関係がわかっていれば足りるのと同じです。

4 つの量と 2 つの関係式

2ポート回路の外から見える量は、\(\dot{V}_1\)、\(\dot{I}_1\)、\(\dot{V}_2\)、\(\dot{I}_2\) の 4 つです。電流は、どちらのポートでも 回路に流れ込む向き を正とします(F パラメータだけは例外で、第13回で説明します)。

内部に電源を含まない線形回路では、4 つのうち 2 つを決めると、残りの 2 つが決まります。その関係は 2 本の一次式で書け、係数は 4 個です。どの 2 つを「決める側」に選ぶかによって、係数の組(パラメータ)の種類が変わります。

パラメータ 決める量 求まる量 向いている接続 回
Z(インピーダンス) \(\dot{I}_1\)、\(\dot{I}_2\) \(\dot{V}_1\)、\(\dot{V}_2\) 直列接続 第11回
Y(アドミタンス) \(\dot{V}_1\)、\(\dot{V}_2\) \(\dot{I}_1\)、\(\dot{I}_2\) 並列接続 第12回
F(縦続) \(\dot{V}_2\)、\(\dot{I}_2\) \(\dot{V}_1\)、\(\dot{I}_1\) 縦続接続 第13回

Z パラメータ

電流を決めたときの電圧を表す形です。

\[ \begin{bmatrix} \dot{V}_1 \\ \dot{V}_2 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \dot{Z}_{11} & \dot{Z}_{12} \\ \dot{Z}_{21} & \dot{Z}_{22} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \end{bmatrix} \qquad\text{すなわち}\qquad \begin{cases} \dot{V}_1 = \dot{Z}_{11}\dot{I}_1 + \dot{Z}_{12}\dot{I}_2 \\ \dot{V}_2 = \dot{Z}_{21}\dot{I}_1 + \dot{Z}_{22}\dot{I}_2 \end{cases} \]

1ポート回路の \(\dot{V} = \dot{Z}\dot{I}\) を、2 つのポートに広げた式です。4 つの係数はすべてインピーダンスの単位(Ω)を持ちます。

求め方:片方のポートを開放する

各パラメータは、片方の電流を 0 にする(そのポートを 開放 する)と、1 つずつ取り出せます。

\[ \dot{Z}_{11} = \left.\frac{\dot{V}_1}{\dot{I}_1}\right|_{\dot{I}_2 = 0}, \quad \dot{Z}_{21} = \left.\frac{\dot{V}_2}{\dot{I}_1}\right|_{\dot{I}_2 = 0}, \quad \dot{Z}_{12} = \left.\frac{\dot{V}_1}{\dot{I}_2}\right|_{\dot{I}_1 = 0}, \quad \dot{Z}_{22} = \left.\frac{\dot{V}_2}{\dot{I}_2}\right|_{\dot{I}_1 = 0} \]

縦棒の右下は「この条件のもとで」という意味です。それぞれの意味は次のとおりです。

パラメータ 意味
\(\dot{Z}_{11}\) 出力を開放したとき、入力側から見たインピーダンス
\(\dot{Z}_{21}\) 出力を開放して入力に電流を流したとき、出力に現れる電圧の割合
\(\dot{Z}_{12}\) 入力を開放して出力に電流を流したとき、入力に現れる電圧の割合
\(\dot{Z}_{22}\) 入力を開放したとき、出力側から見たインピーダンス

開放した状態で測るので、Z パラメータを 開放インピーダンスパラメータ とも呼びます。

T 形回路の Z パラメータ

シミュレータの回路は、直列の枝 \(\dot{Z}_a\)、\(\dot{Z}_b\) と並列の枝 \(\dot{Z}_c\) を T の字につないだ T 形回路 です。

出力を開放すると、\(\dot{Z}_b\) には電流が流れません。入力の電流 \(\dot{I}_1\) は \(\dot{Z}_a\) と \(\dot{Z}_c\) を流れるので、\(\dot{V}_1 = (\dot{Z}_a + \dot{Z}_c)\dot{I}_1\)。出力の電圧は \(\dot{Z}_c\) の電圧そのもの(\(\dot{Z}_b\) での電圧降下が 0 のため)で、\(\dot{V}_2 = \dot{Z}_c\dot{I}_1\)。入力を開放した場合も同様に考えると

\[ \dot{Z}_{11} = \dot{Z}_a + \dot{Z}_c, \qquad \dot{Z}_{12} = \dot{Z}_{21} = \dot{Z}_c, \qquad \dot{Z}_{22} = \dot{Z}_b + \dot{Z}_c \]

が得られます。この結果は、第9回の閉路電流方程式の規則そのものです。入力側の閉路と出力側の閉路について、対角が「一周のインピーダンスの和」、対角以外が「共有する枝」になっています(2 つの電流が \(\dot{Z}_c\) を同じ向きに流れるので、符号は正です)。

シミュレータで「出力端子を開放する」にチェックを入れた状態では、\(V_1 / I_1\) が \(Z_{11}\) に、\(V_2 / I_1\) が \(Z_{21}\) に一致します。

相反性と対称性

抵抗、インダクタ、コンデンサ、変圧器だけでできた回路では、必ず

\[ \dot{Z}_{12} = \dot{Z}_{21} \]

が成り立ちます。これを 相反性 と呼びます。「入口に電流を流して出口の電圧を測る」のと「出口に同じ電流を流して入口の電圧を測る」のとで、同じ結果になるという性質です。相反な回路では、独立なパラメータは 3 個です。

さらに \(\dot{Z}_{11} = \dot{Z}_{22}\) が成り立つ回路を 対称 な回路と呼びます。入口と出口を入れかえても、外から見た性質が変わりません。T 形回路では \(\dot{Z}_a = \dot{Z}_b\) のときです。

負荷をつないだときの計算

Z パラメータがわかっていれば、ポートに何をつないでも、2 本の式に外部の条件を加えるだけで計算できます。

出力に負荷 \(\dot{Z}_L\) をつなぐと、\(\dot{I}_2\) を流れ込む向きに決めているので、\(\dot{V}_2 = -\dot{Z}_L\dot{I}_2\) です。これを 2 本目の式に入れて \(\dot{I}_2\) を消去すると、入力側から見たインピーダンスが求まります。

\[ \dot{Z}_{in} = \frac{\dot{V}_1}{\dot{I}_1} = \dot{Z}_{11} - \frac{\dot{Z}_{12}\dot{Z}_{21}}{\dot{Z}_{22} + \dot{Z}_L} \]

シミュレータのチェックを外して負荷をつなぎ、\(V_1 / I_1\) が \(Z_{11}\) から変化することを確かめてください。負荷を大きくしていくと、開放のときの値 \(Z_{11}\) に近づきます。

直列接続

2 つの 2ポート回路の入力どうし、出力どうしをそれぞれ直列につなぐ接続を 直列接続 と呼びます。両方の回路に同じ電流 \(\dot{I}_1\)、\(\dot{I}_2\) が流れ、電圧は 2 つの回路の和になります。したがって、全体の Z パラメータは、それぞれの Z パラメータの行列の和です。

\[ [\dot{Z}] = [\dot{Z}'] + [\dot{Z}''] \]

直列につないだ 2 個の抵抗の合成が \(R_1 + R_2\) になるのと同じ関係です。Z パラメータは、直列接続を計算するのに適した表現です。

数値例(シミュレータの初期設定)

\(Z_a = 10\)、\(Z_b = 20\)、\(Z_c = 30\) Ω の T 形回路では

\[ [Z] = \begin{bmatrix} 40 & 30 \\ 30 & 50 \end{bmatrix}\ \Omega \]

出力を開放して \(V_1 = 10\) V を加えると、\(I_1 = 10/40 = 0.25\) A、\(V_2 = 30 \times 0.25 = 7.5\) V です。

出力に 20 Ω の負荷をつなぐと、\(Z_{in} = 40 - \dfrac{30 \times 30}{50 + 20} = 27.1\) Ω になります。

まとめ

  • 2ポート回路は、入口と出口の電圧・電流の関係だけで回路を表す考え方。
  • Z パラメータ:\([\dot{V}] = [\dot{Z}][\dot{I}]\)。片方のポートを開放して求める。
  • T 形回路では \(\dot{Z}_{11} = \dot{Z}_a + \dot{Z}_c\)、\(\dot{Z}_{12} = \dot{Z}_{21} = \dot{Z}_c\)、\(\dot{Z}_{22} = \dot{Z}_b + \dot{Z}_c\)。
  • 受動素子だけの回路は相反(\(\dot{Z}_{12} = \dot{Z}_{21}\))。
  • 直列接続では Z パラメータの行列を足す。

練習