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第13回 回転磁界

この回の位置づけ

シラバス(電気回路III):多相交流6(配布資料)。回転磁界について学ぶ。

必要な準備:第8回、第12回

この回の目標:三相交流や二相交流から回転磁界ができるしくみを説明でき、同期速度を計算できる。

動かないコイルで、回る磁界を作る

磁石を手で回すと、そのまわりの磁界も回ります。近くに方位磁針を置けば、磁石につられて回ります。モーターは、この「回る磁界」に回転子を引きずらせて回る機械です。

磁石を機械的に回す代わりに、固定したコイルに多相交流を流すだけで、回る磁界を作る ことができます。これが 回転磁界 で、交流モーターの動作原理の中心です。

1 個のコイル:交番磁界

1 個のコイルに交流を流すと、コイルの軸の方向に磁界ができます。磁界の強さは電流に比例するので、\(H_m\cos\omega t\) のように変化します。磁界は軸に沿って伸び縮みし、向きを反転させますが、軸の方向からは外れません。 これを 交番磁界 と呼びます。

シミュレータで「単相」を選ぶと確認できます。

3 個のコイル:回転磁界

3 個のコイルを、軸の方向が 120° ずつ異なるように配置し、対称三相交流を流します。各コイルの磁界は、それぞれの軸の方向で、120° ずつずれたタイミングで伸び縮みします。

  • コイル a(軸の方向 0°):\(H_m\cos\omega t\)
  • コイル b(軸の方向 120°):\(H_m\cos(\omega t - 120°)\)
  • コイル c(軸の方向 240°):\(H_m\cos(\omega t - 240°)\)

3 つの磁界を、向きを含めて足し合わせると、合成した磁界は次のようになります。

三相の回転磁界

  • 大きさは、1 個のコイルの磁界の最大値の 1.5 倍で一定。
  • 向きは、角速度 \(\omega\) で回転 する。電源の 1 周期で 1 回転する。

空間的な配置のずれ(120°)と、時間的な位相のずれ(120°)が組み合わさる ことで、個々には伸び縮みするだけの磁界が、全体として回転します。

たとえ:競技場のウェーブ

観客は自分の席で立ったり座ったりするだけで、横には動きません。しかし、隣の人と少しずつタイミングをずらして立つと、波が客席を回っていくように見えます。各コイルの磁界が観客、合成した磁界の向きがウェーブの位置にあたります。

ある瞬間に a 相の電流が最大なら、合成磁界は a の軸を向いています。1/3 周期後には b 相の電流が最大になり、合成磁界は b の軸(120° 先)を向きます。さらに 1/3 周期後には c の軸を向きます。磁界の向きが、電流が最大になるコイルを追いかけて回っていきます。

式による確認

横方向(a の軸の方向)の成分を \(H_x\)、それに垂直な成分を \(H_y\) とします。コイル b の軸は 120°、コイル c の軸は 240° の方向なので

\[ H_x = H_m\left\{\cos\omega t + \cos(\omega t - 120°)\cos 120° + \cos(\omega t - 240°)\cos 240°\right\} \]
\[ H_y = H_m\left\{\cos(\omega t - 120°)\sin 120° + \cos(\omega t - 240°)\sin 240°\right\} \]

三角関数の加法定理で整理すると

\[ H_x = \frac{3}{2}H_m\cos\omega t, \qquad H_y = \frac{3}{2}H_m\sin\omega t \]

となります。これは、半径 \(\dfrac{3}{2}H_m\) の円周上を、角度 \(\omega t\) で回る点の座標です。

回転の向きを逆にする

シミュレータで「2 本の線を入れかえる」にチェックを入れると、回転の向きが逆になります。3 本の線のうち 2 本を入れかえると、相順が a → b → c から a → c → b に変わり、電流が最大になるコイルの順番が逆回りになるからです。

三相モーターを逆回転させたいときは、3 本の電線のうち任意の 2 本を入れかえます。

2 個のコイル:二相の回転磁界

2 個のコイルを、軸が直角になるように配置し、位相が 90° ずれた二相交流を流します。

  • コイル a(横方向):\(H_m\cos\omega t\)
  • コイル b(縦方向):\(H_m\cos(\omega t - 90°) = H_m\sin\omega t\)

横と縦の成分がそのまま \(\cos\omega t\) と \(\sin\omega t\) なので、合成した磁界は、大きさ \(H_m\) で一定のまま回転します。準備3の単位円そのものです。

単相で回転磁界を作る

家庭には単相の電源しかありませんが、扇風機や洗濯機にもモーターが使われています。

交番磁界は、逆向きに回る 2 つの回転磁界の和 とみなせます(シミュレータの「単相」で、点線の 2 本の矢印)。

\[ H_m\cos\omega t = \frac{H_m}{2}\,(\text{反時計回りに回る磁界}) + \frac{H_m}{2}\,(\text{時計回りに回る磁界}) \]

止まっている回転子は、両方向へ同じ強さで引かれるので、どちらにも回り出せません。いったんどちらかへ回り始めれば、その方向の回転磁界に引かれて回り続けます。古い扇風機の羽根を手で回すと回り始めることがあるのは、このためです。

実際の単相モーターでは、主コイルと直角に補助コイルを置き、コンデンサを直列に入れて電流の位相を進ませます。 コンデンサでは電流が電圧より進むので、主コイルの電流との間に 90° に近い位相差ができ、二相に近い回転磁界が得られます。これがコンデンサモーターです。

同期速度

回転磁界の回転の速さを 同期速度 と呼びます。上で見た配置(N 極と S 極が 1 組、2 極)では、電源の 1 周期で磁界が 1 回転するので、周波数 \(f\) [Hz] なら毎秒 \(f\) 回転、毎分 \(60f\) 回転です。

コイルの配置を変えて、円周上に N 極と S 極が 2 組(4 極)できるようにすると、電源の 1 周期で磁界は半回転しか進みません。一般に、極数を \(p\) とすると

\[ N_s = \frac{120 f}{p}\ [\text{min}^{-1}] \]

です。

極数 \(p\) 50 Hz 60 Hz
2 3000 3600
4 1500 1800
6 1000 1200
8 750 900

(単位は min⁻¹、毎分の回転数)

同期速度は周波数に比例します。インバータで電源の周波数を変えると、モーターの速度を自由に変えられます。エアコン、電車、電気自動車の速度制御は、この原理によっています。

回転磁界とモーター

回転磁界の中に何を置くかによって、モーターの種類が分かれます。

同期電動機:回転子に磁石(永久磁石または電磁石)を使います。磁石は回転磁界に引かれ、同期速度とまったく同じ速さで回ります。

誘導電動機:回転子に、短絡した導体(かご形の導体)を使います。回転磁界が導体を横切ると、電磁誘導で導体に電流が流れ、その電流と磁界の間に力が働いて、回転子が磁界に引きずられます。回転子が磁界と同じ速さになると、導体を横切る磁束の変化がなくなって力が生じなくなるので、回転子は必ず同期速度より少し遅く回ります。その遅れの割合を すべり と呼びます。

誘導電動機は、回転子に電線をつなぐ必要がなく、構造が簡単で丈夫なので、工場の動力からエレベーター、電車まで、最も広く使われているモーターです。詳細は電気機器の科目で扱われます。

まとめ

  • 軸の方向が 120° ずつ違う 3 個のコイルに対称三相交流を流すと、大きさ \(1.5H_m\) で一定の回転磁界ができる。
  • 直角に置いた 2 個のコイルに二相交流を流しても、回転磁界ができる。
  • 1 個のコイルでは交番磁界になり、回転しない。逆向きに回る 2 つの回転磁界の和とみなせる。
  • 同期速度 \(N_s = 120f/p\) [min⁻¹]。2 本の線を入れかえると逆回転する。

練習