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第2回 電磁誘導回路

この回の位置づけ

シラバス(電気回路II):電磁誘導回路(教科書 第18章 18.1–18.3)。電磁誘導結合と相互インダクタンス、電磁誘導回路の一般理論と等価回路について学ぶ。

必要な準備:電気回路I 第2回のインダクタ、第9回のインピーダンス

この回の目標:相互インダクタンスの意味と符号の決め方を説明でき、結合した 2 つのコイルを含む回路の式を立てられる。

電磁誘導と自己誘導

コイルを貫く磁束が変化すると、コイルに電圧が生じます。これが 電磁誘導 で、生じる電圧は磁束の変化の速さに比例します(ファラデーの法則)。

コイルに電流を流すと、コイル自身が磁束を作ります。電流が変化すれば磁束も変化し、そのコイル自身に電圧が生じます。これが 自己誘導 で、電気回路I で学んだ \(v = L\dfrac{di}{dt}\) はこの現象を表しています。\(L\) を 自己インダクタンス と呼びます。

相互誘導

2 つのコイルを近くに置くと、一方のコイルが作った磁束の一部が、もう一方のコイルを貫きます。一方の電流が変化すると、電線でつながっていないもう一方のコイルにも 電圧が生じます。これが 相互誘導 です。

\[ v_2 = M\frac{di_1}{dt} \]

比例定数 \(M\) を 相互インダクタンス と呼び、単位は \(L\) と同じ H(ヘンリー)です。\(M\) は、2 つのコイルがどれだけ多くの磁束を共有しているかを表します。

二次側の電圧を決めているのは、一次電流の大きさではなく、変化の速さです。三角波では電流が一定の速さで増減するので、二次電圧は一定値が交互に現れる方形波になります。一次電流が直流(変化なし)なら、二次側には何も現れません。

たとえ:2 つの水車を軸でつなぐ

インダクタは重い水車でした。相互誘導は、別々の水路に置いた 2 つの水車を、ベルトや歯車でつないだ状態にあたります。一方の水車の回転を変えようとすると、もう一方の水車にも力が伝わります。水そのものは行き来しませんが、力(電圧)は伝わります。ベルトのつなぎ方が強いほど、\(M\) が大きいことに対応します。

スマートフォンのワイヤレス充電は、この現象の利用です。充電台のコイルと本体のコイルは電線でつながっていませんが、充電台の交流電流が作る磁束の変化が、本体のコイルに電圧を生みます。

結合した 2 つのコイルの式

両方のコイルに電流が流れているとき、各コイルの電圧は、自己誘導による分と相互誘導による分の和になります。

\[ v_1 = L_1\frac{di_1}{dt} \pm M\frac{di_2}{dt}, \qquad v_2 = \pm M\frac{di_1}{dt} + L_2\frac{di_2}{dt} \]

正弦波交流では、微分が \(j\omega\) のかけ算になるので

\[ \dot{V}_1 = j\omega L_1 \dot{I}_1 \pm j\omega M \dot{I}_2, \qquad \dot{V}_2 = \pm j\omega M \dot{I}_1 + j\omega L_2 \dot{I}_2 \]

です。

符号の決め方

\(\pm\) の符号は、2 つのコイルの巻き方と電流の向きで決まります。回路図では、巻き方を ● 印(ドット)で表します。

ドットの規則

両方の電流が ● 印のある端子から 流れ込む(または両方とも流れ出る)向きに定義されているとき、相互誘導の項の符号は 正。一方が流れ込み、他方が流れ出る向きのときは 負。

● 印は「この端子から電流を流し込むと、同じ向きの磁束ができる」という端子に付けられています。両方の電流が ● から入れば磁束は強め合い、相互誘導の電圧は自己誘導の電圧と同じ向きに加わります。

シミュレータで「二次コイルの巻き方」を逆向きにすると、二次電圧の符号が反転することを確かめてください。

直列接続

結合した 2 つのコイルを直列につなぐと、同じ電流 \(i\) が両方に流れます。

電流が両方のコイルの ● から入る向きのつなぎ方を 和動接続 と呼びます。全体の電圧は \((L_1 + M)\dfrac{di}{dt} + (L_2 + M)\dfrac{di}{dt}\) となるので、合成インダクタンスは

\[ L = L_1 + L_2 + 2M \qquad \text{(和動)} \]

です。一方のコイルを逆向きにつなぐと 差動接続 になり

\[ L = L_1 + L_2 - 2M \qquad \text{(差動)} \]

です。2 つの値の差が \(4M\) になることを利用すると、和動と差動で合成インダクタンスを 1 回ずつ測るだけで、\(M\) を求められます。

T 形等価回路

磁界でつながった 2 つのコイルは、片方の端子どうしが共通になっている場合、結合のない 3 個のコイル に置きかえられます。これを T 形等価回路と呼びます(シミュレータの右側)。

3 個のコイルの値は \(L_1 - M\)、\(L_2 - M\)、\(M\) です。この置きかえが正しいことは、等価回路の閉路の式を書くと確かめられます。一次側の閉路では

\[ \dot{V}_1 = j\omega(L_1 - M)\dot{I}_1 + j\omega M(\dot{I}_1 + \dot{I}_2) = j\omega L_1\dot{I}_1 + j\omega M\dot{I}_2 \]

となり、結合したコイルの式と一致します。

等価回路に直せば、相互誘導を意識せずに、電気回路I の方法(直列・並列の合成、網目電流法)でそのまま計算できます。\(L_1 - M\) や \(L_2 - M\) は負の値になることがありますが、これは計算上の素子であり、等価回路全体としては正しい結果を与えます。

二次側に負荷をつないだ回路

一次側に電源、二次側に負荷 \(\dot{Z}_L\) をつないだ回路を考えます。二次側の閉路では、相互誘導で生じた電圧が、\(j\omega L_2\) と \(\dot{Z}_L\) に電流を流します。これを解いて一次側の式に代入すると、電源から見たインピーダンスが求まります。

\[ \dot{Z}_{in} = \frac{\dot{V}_1}{\dot{I}_1} = j\omega L_1 + \frac{(\omega M)^2}{j\omega L_2 + \dot{Z}_L} \]

第 1 項は一次コイル単独のインピーダンス、第 2 項は二次側の回路が一次側に及ぼす影響を表します。二次側は電線でつながっていませんが、電源からは、一次コイルに直列に \(\dfrac{(\omega M)^2}{\dot{Z}_{22}}\)(\(\dot{Z}_{22}\) は二次側の閉路の全インピーダンス)が入ったように見えます。二次側で電力を消費すれば、その分のエネルギーは一次側の電源が供給することになるので、一次側から見て抵抗分が増えるのは自然な結果です。

この式の導出

両方の電流を ● から流れ込む向きに決めると

\[ \dot{V}_1 = j\omega L_1\dot{I}_1 + j\omega M\dot{I}_2, \qquad \dot{V}_2 = j\omega M\dot{I}_1 + j\omega L_2\dot{I}_2 \]

です。負荷では \(\dot{V}_2 = -\dot{Z}_L\dot{I}_2\)(電流が負荷から出てくる向きに定義されているため負号がつく)なので、2 本目の式から

\[ \dot{I}_2 = -\frac{j\omega M}{j\omega L_2 + \dot{Z}_L}\dot{I}_1 \]

が得られます。これを 1 本目に代入し、\(j \times j = -1\) を使うと上の式になります。

まとめ

  • 相互誘導:一方のコイルの電流の変化が、他方のコイルに電圧 \(M\,di/dt\) を生む。
  • フェーザでは \(\dot{V}_1 = j\omega L_1\dot{I}_1 \pm j\omega M\dot{I}_2\)。符号は ● 印に対する電流の向きで決まる。
  • 直列接続の合成インダクタンスは \(L_1 + L_2 \pm 2M\)。
  • 一端が共通なら、\(L_1 - M\)、\(L_2 - M\)、\(M\) の T 形等価回路に置きかえられる。

練習