第13回 2ポート回路③(F パラメータ)¶
この回の位置づけ
シラバス(電気回路II):2ポート回路③(教科書 続 第2章)。2ポート回路の F パラメータ表現式と算定法を学び、2ポート回路の縦続接続回路の解析法を学ぶ。また各種パラメータ間の変換関係についても学ぶ。
この回の目標:基本的な回路の F パラメータを求められ、縦続接続を行列のかけ算で計算できる。パラメータどうしを変換できる。
縦続接続と F パラメータ¶
実際の機器では、2ポート回路を数珠つなぎにすることがよくあります。マイク → 増幅器 → フィルタ → スピーカーのように、前の回路の出口が次の回路の入口になるつなぎ方です。これを 縦続接続(カスケード接続)と呼びます。
縦続接続に適した表現が F パラメータ(基本行列、縦続行列、ABCD パラメータ)です。出口側の電圧と電流から、入口側の電圧と電流を表します。
F パラメータだけは、出口の電流の向きが逆
F パラメータでは、\(\dot{I}_2\) を出口から 流れ出る向き を正とします。Z パラメータ、Y パラメータ(流れ込む向きが正)とは逆です。前の回路から流れ出た電流が、そのまま次の回路に流れ込む電流になるようにするための約束です。
なお、教科書によっては、\(\dot{I}_2\) を流れ込む向きのままにして、式に負号をつけて書く流儀もあります。使用する教科書の定義を確認してください。この教材は「流れ出る向きを正」とします。
4 つの係数は、単位がそろっていません。
| パラメータ | 求め方 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|---|
| \(\dot{A} = \left.\dfrac{\dot{V}_1}{\dot{V}_2}\right\vert_{\dot{I}_2 = 0}\) | 出力を開放 | 電圧比(の逆数) | なし |
| \(\dot{B} = \left.\dfrac{\dot{V}_1}{\dot{I}_2}\right\vert_{\dot{V}_2 = 0}\) | 出力を短絡 | 伝達インピーダンス | Ω |
| \(\dot{C} = \left.\dfrac{\dot{I}_1}{\dot{V}_2}\right\vert_{\dot{I}_2 = 0}\) | 出力を開放 | 伝達アドミタンス | S |
| \(\dot{D} = \left.\dfrac{\dot{I}_1}{\dot{I}_2}\right\vert_{\dot{V}_2 = 0}\) | 出力を短絡 | 電流比(の逆数) | なし |
基本になる 2 つの回路¶
どのようなはしご形の回路も、次の 2 種類の区間をつないだものです。
直列のインピーダンス \(\dot{Z}\) だけの区間:電流は素通りし(\(\dot{I}_1 = \dot{I}_2\))、電圧は \(\dot{Z}\dot{I}_2\) だけ下がります(\(\dot{V}_1 = \dot{V}_2 + \dot{Z}\dot{I}_2\))。
並列のアドミタンス \(\dot{Y}\) だけの区間:電圧は共通で(\(\dot{V}_1 = \dot{V}_2\))、電流は \(\dot{Y}\dot{V}_2\) だけ分かれます(\(\dot{I}_1 = \dot{Y}\dot{V}_2 + \dot{I}_2\))。
もう 1 つ、理想変圧器(巻数比 \(a\))は \(\dot{V}_1 = a\dot{V}_2\)、\(\dot{I}_1 = \dot{I}_2 / a\) なので、\([F] = \begin{bmatrix} a & 0 \\ 0 & 1/a \end{bmatrix}\) です。
縦続接続は行列のかけ算¶
1 段目の出口の電圧・電流は、2 段目の入口の電圧・電流と同じものです。
したがって、全体の F パラメータは、各段の F パラメータを 入口側から順にかけ合わせたもの です。
区間の種類と値を変えて、行列の積が変わるようすを見てください。行列のかけ算は順番を入れかえられないので、「直列 → 並列」と「並列 → 直列」では結果が異なります。回路としても、この 2 つは別の回路です。
数値例:T 形回路(シミュレータの初期設定)
直列 10 Ω、並列 20 Ω、直列 10 Ω の T 形回路です。
\(A = 1.5\) なので、出力を開放したときの電圧比は \(V_2 / V_1 = 1/A = 0.667\) です。開放時には右側の 10 Ω に電流が流れないので、左の 10 Ω と中央の 20 Ω の分圧 \(\dfrac{20}{10 + 20} = 0.667\) と一致します。
F パラメータの性質¶
相反な回路(R、L、C、変圧器だけの回路)では、行列式が 1 になります。
基本の 2 つの区間はどちらも行列式が 1 で、行列の積の行列式は行列式の積に等しいので、それらをいくつつないでも 1 のままです。計算結果の検算に使えます。上の例では \(1.5 \times 1.5 - 25 \times 0.05 = 1\) です。
対称な回路(入口と出口を入れかえても同じ)では \(\dot{A} = \dot{D}\) です。
負荷をつないだときの計算¶
出口に負荷 \(\dot{Z}_L\) をつなぐと \(\dot{V}_2 = \dot{Z}_L\dot{I}_2\)(\(\dot{I}_2\) は流れ出る向き)なので、入口から見たインピーダンスは
です。入力電圧に対する出力電圧の比は
で、開放(\(\dot{Z}_L \to \infty\))のとき \(1/\dot{A}\) になります。
周波数応答関数¶
入力に対する出力の比を、周波数の関数として表したものを 周波数応答関数(伝達関数)と呼びます。出力開放の電圧比なら
です。\(|\dot{H}|\) が各周波数での振幅の比、偏角が位相のずれを表します。
RC 低域通過フィルタ
直列の抵抗 \(R\) と並列のコンデンサ \(C\) を縦続接続します。
\(\dot{H} = \dfrac{1}{\dot{A}} = \dfrac{1}{1 + j\omega CR}\) で、電気回路I 第11回で分圧の式から求めた結果と一致します。同じ区間をもう 1 段つなげば、行列をもう 1 回かけるだけで 2 段フィルタの特性が求まります。
パラメータ間の変換¶
Z、Y、F パラメータは、同じ回路を別の形で表したものなので、互いに変換できます。変換式は、一方の定義式を他方の形に並べ直すと得られます。
\(\Delta_Z = \dot{Z}_{11}\dot{Z}_{22} - \dot{Z}_{12}\dot{Z}_{21}\)、\(\Delta_Y = \dot{Y}_{11}\dot{Y}_{22} - \dot{Y}_{12}\dot{Y}_{21}\) とします。
| 求めるもの | Z から | Y から | F から |
|---|---|---|---|
| \(\dot{Z}_{11}\)、\(\dot{Z}_{12}\) | — | \(\dfrac{\dot{Y}_{22}}{\Delta_Y}\)、\(\dfrac{-\dot{Y}_{12}}{\Delta_Y}\) | \(\dfrac{\dot{A}}{\dot{C}}\)、\(\dfrac{\dot{A}\dot{D} - \dot{B}\dot{C}}{\dot{C}}\) |
| \(\dot{Z}_{21}\)、\(\dot{Z}_{22}\) | — | \(\dfrac{-\dot{Y}_{21}}{\Delta_Y}\)、\(\dfrac{\dot{Y}_{11}}{\Delta_Y}\) | \(\dfrac{1}{\dot{C}}\)、\(\dfrac{\dot{D}}{\dot{C}}\) |
| \(\dot{Y}_{11}\)、\(\dot{Y}_{12}\) | \(\dfrac{\dot{Z}_{22}}{\Delta_Z}\)、\(\dfrac{-\dot{Z}_{12}}{\Delta_Z}\) | — | \(\dfrac{\dot{D}}{\dot{B}}\)、\(-\dfrac{\dot{A}\dot{D} - \dot{B}\dot{C}}{\dot{B}}\) |
| \(\dot{Y}_{21}\)、\(\dot{Y}_{22}\) | \(\dfrac{-\dot{Z}_{21}}{\Delta_Z}\)、\(\dfrac{\dot{Z}_{11}}{\Delta_Z}\) | — | \(-\dfrac{1}{\dot{B}}\)、\(\dfrac{\dot{A}}{\dot{B}}\) |
| \(\dot{A}\)、\(\dot{B}\) | \(\dfrac{\dot{Z}_{11}}{\dot{Z}_{21}}\)、\(\dfrac{\Delta_Z}{\dot{Z}_{21}}\) | \(-\dfrac{\dot{Y}_{22}}{\dot{Y}_{21}}\)、\(-\dfrac{1}{\dot{Y}_{21}}\) | — |
| \(\dot{C}\)、\(\dot{D}\) | \(\dfrac{1}{\dot{Z}_{21}}\)、\(\dfrac{\dot{Z}_{22}}{\dot{Z}_{21}}\) | \(-\dfrac{\Delta_Y}{\dot{Y}_{21}}\)、\(-\dfrac{\dot{Y}_{11}}{\dot{Y}_{21}}\) | — |
表を暗記するよりも、導き方を 1 つ理解しておくほうが確実です。
導き方の例:Z パラメータから F パラメータ
Z パラメータの式(\(\dot{I}_2\) は流れ込む向き)で、F パラメータの電流 \(\dot{I}_2'\)(流れ出る向き)を使うと \(\dot{I}_2 = -\dot{I}_2'\) なので
です。2 本目を \(\dot{I}_1\) について解くと
となり、\(\dot{C} = \dfrac{1}{\dot{Z}_{21}}\)、\(\dot{D} = \dfrac{\dot{Z}_{22}}{\dot{Z}_{21}}\) が読み取れます。これを 1 本目に代入すると \(\dot{A}\)、\(\dot{B}\) が得られます。
確認
第11回の T 形回路(\(Z_{11} = 40\)、\(Z_{12} = Z_{21} = 30\)、\(Z_{22} = 50\) Ω)を F パラメータに変換すると
シミュレータで「直列 10 Ω、並列 30 Ω、直列 20 Ω」に設定すると、同じ値が得られます。
3 つのパラメータの使い分け¶
| Z パラメータ | Y パラメータ | F パラメータ | |
|---|---|---|---|
| 形 | \([\dot{V}] = [\dot{Z}][\dot{I}]\) | \([\dot{I}] = [\dot{Y}][\dot{V}]\) | 入口 \(= [F] \times\) 出口 |
| 測り方 | 開放 | 短絡 | 開放と短絡 |
| 簡単に求まる回路 | T 形 | π 形 | はしご形 |
| 向いている接続 | 直列(行列の和) | 並列(行列の和) | 縦続(行列の積) |
| 相反の条件 | \(\dot{Z}_{12} = \dot{Z}_{21}\) | \(\dot{Y}_{12} = \dot{Y}_{21}\) | \(\dot{A}\dot{D} - \dot{B}\dot{C} = 1\) |
| 対称の条件 | \(\dot{Z}_{11} = \dot{Z}_{22}\) | \(\dot{Y}_{11} = \dot{Y}_{22}\) | \(\dot{A} = \dot{D}\) |
まとめ¶
- F パラメータは、出口の電圧・電流から入口の電圧・電流を表す。出口の電流は流れ出る向きが正。
- 直列の \(\dot{Z}\) は \(\begin{bmatrix} 1 & \dot{Z} \\ 0 & 1 \end{bmatrix}\)、並列の \(\dot{Y}\) は \(\begin{bmatrix} 1 & 0 \\ \dot{Y} & 1 \end{bmatrix}\)。
- 縦続接続では、F パラメータの行列を入口側から順にかける。
- 相反な回路では \(\dot{A}\dot{D} - \dot{B}\dot{C} = 1\)。
- 出力開放の電圧比は \(1/\dot{A}\)。これを周波数の関数として見たものが周波数応答関数。