第9回 R・L・C とインピーダンス¶
この回の位置づけ
シラバス:交流回路②(教科書 第10章 10.1–10.3、第11章 11.2–11.3)。交流における回路要素の性質と基本関係式を説明し、インピーダンスおよびアドミタンスの概念を導入する。
必要な準備:第2回の R・L・C の関係式、第8回のフェーザ
この回の目標:抵抗・インダクタ・キャパシタに交流を加えたときの電圧と電流の関係を、大きさと位相の両方について説明できる。インピーダンスを使って「交流のオームの法則」を書ける。
交流での 3 つの素子¶
第2回で、3 つの素子の関係式を示しました。
直流の定常状態では、インダクタは導線、キャパシタは切れた線と同じで、回路の計算には抵抗しか現れませんでした。交流では電圧も電流も変化し続けるので、インダクタとキャパシタが回路の動作に関わってきます。
素子を切りかえて、電圧(赤)と電流(青)の波のずれ方と、周波数を変えたときの電流の変化を見てください。波がずれる理由を時間を追って確かめたいときは、第2回の「時間的なふるまい」のシミュレータで、変え方を正弦波にしてください。
抵抗:電圧と電流は同相¶
抵抗では、どの瞬間にも \(v = Ri\) が成り立ちます。電圧が最大のとき電流も最大、電圧が 0 のとき電流も 0 です。波の形はそのままで、大きさだけが \(R\) 倍になります。フェーザで書くと
です。周波数を変えても、この関係は変わりません。
インダクタ:電流が 90° 遅れる¶
インダクタの電圧は、電流の変化の速さに比例します。電流を \(i = \sqrt{2} I \sin\omega t\) とすると
となります。電圧は、大きさが電流の \(\omega L\) 倍で、位相が 90° 進んでいます。言いかえると、電流は電圧より 90° 遅れます。
第8回の対応(微分は \(j\omega\) をかけること)を使うと、フェーザでは 1 行で書けます。
\(j\) が 90° の進みを、\(\omega L\) が大きさの比を表しています。この \(\omega L\) を 誘導性リアクタンス と呼び、\(X_L\) と書きます。単位は抵抗と同じ Ω です。
たとえ:重い水車を往復させる
インダクタは重い水車でした。水を押す向きを周期的に入れかえても、重い水車はすぐには向きを変えられず、押す力(電圧)に対して動き(電流)が遅れます。押す向きを速く入れかえるほど、水車は動き出す前に逆向きに押されることになり、ほとんど動けなくなります。周波数が高いほど \(X_L\) が大きくなり、電流が流れにくくなるのはこのためです。
周波数が 0(直流)なら \(X_L = 0\) で、第2回で見た「直流では導線と同じ」に一致します。
キャパシタ:電流が 90° 進む¶
キャパシタの電流は、電圧の変化の速さに比例します。インダクタの場合と電圧・電流の役割が入れかわっているので、フェーザでは
となります。電流は電圧の \(\omega C\) 倍の大きさで、電圧より 90° 進みます。\(\dfrac{1}{\omega C}\) を 容量性リアクタンス と呼び、\(X_C\) と書きます。
たとえ:管をふさぐゴムの膜
交流でのキャパシタは、管の途中に張ったゴムの膜にたとえられます。膜は水を通しませんが、水を押すと膜がふくらみ、その分だけ反対側の水が押し出されます。一方向に押し続けると、膜が伸びきったところで流れは止まります(直流は通らない)。往復させると、膜がふくらんだりへこんだりして、両側の水は行き来します(交流は通る)。
膜が中央にあって伸びていない瞬間(電圧 0)に、水はいちばん勢いよく動けます。膜が伸びきった瞬間(電圧最大)に、水は止まります。電流の山が電圧の山より先に来るのはこのためです。速く往復させるほど、膜は少ししか伸びないうちに向きが変わるので、流れをさまたげなくなります。周波数が高いほど \(X_C\) は小さくなります。
周波数による違い¶
グラフの縦軸と横軸は、1 目盛りで 10 倍になる 対数目盛 です。周波数のように何桁にもわたって変化する量を 1 枚の図に収めるために使います。
3 つの素子を比べると、次のようになります。
| 抵抗 \(R\) | インダクタ \(L\) | キャパシタ \(C\) | |
|---|---|---|---|
| フェーザの関係式 | \(\dot{V} = R\dot{I}\) | \(\dot{V} = j\omega L\,\dot{I}\) | \(\dot{V} = \dfrac{1}{j\omega C}\dot{I}\) |
| 電圧と電流の大きさの比 | \(R\) | \(X_L = \omega L\) | \(X_C = \dfrac{1}{\omega C}\) |
| 電流の位相(電圧を基準) | 同相 | 90° 遅れ | 90° 進み |
| 周波数を上げると | 変わらない | 流れにくくなる | 流れやすくなる |
| 直流(\(f = 0\))では | \(R\) | 短絡 | 開放 |
位相の関係は取り違えやすいので、理由と一緒に覚えます。インダクタは電流の変化をさまたげるので電流が遅れ、キャパシタは電流が流れ込んでから電圧が上がるので電流が先です。
インピーダンス¶
3 つの素子の関係式は、どれも「電圧のフェーザ = ある複素数 × 電流のフェーザ」の形をしています。この複素数を インピーダンス と呼び、\(\dot{Z}\) と書きます。単位は Ω です。
これは 交流のオームの法則 です。直流の \(V = RI\) と同じ形で、抵抗 \(R\) がインピーダンス \(\dot{Z}\) に、数が複素数に変わっただけです。
各素子のインピーダンスは次のとおりです。
インピーダンスは 1 個の複素数で、2 つの情報を持っています。
- 絶対値 \(|\dot{Z}|\):電圧と電流の大きさの比(どれだけ流れにくいか)
- 偏角:電圧が電流よりどれだけ進んでいるか
一般のインピーダンスは、実部と虚部を持ちます。
実部 \(R\) を 抵抗分、虚部 \(X\) を リアクタンス分 と呼びます。\(X\) が正なら 誘導性(インダクタの性質が勝っていて、電流が遅れる)、負なら 容量性(キャパシタの性質が勝っていて、電流が進む)です。
数値例
100 mH のインダクタに、50 Hz、実効値 100 V の電圧をかけます。
\(X_L = 2\pi \times 50 \times 0.1 = 31.4\) Ω なので \(\dot{Z} = j31.4\) Ω。電圧を基準(\(\dot{V} = 100\angle 0°\))にすると
電流の実効値は 3.18 A で、位相は電圧より 90° 遅れています。上のシミュレータの初期設定がこの条件です。
アドミタンス¶
インピーダンスの逆数を アドミタンス と呼び、\(\dot{Y}\) と書きます。単位は S(ジーメンス)です。
直流でのコンダクタンス \(G = 1/R\) に対応する量で、「流れやすさ」を表します。各素子のアドミタンスは
です。一般のアドミタンスは \(\dot{Y} = G + jB\) と書き、実部 \(G\) を コンダクタンス、虚部 \(B\) を サセプタンス と呼びます。
直流で、並列回路の計算にコンダクタンスが便利だったのと同じく、交流の並列回路ではアドミタンスを使うと足し算だけで合成できます(第10回)。
インピーダンスはフェーザではない
インピーダンスもアドミタンスも複素数ですが、電圧や電流のフェーザとは種類が違います。フェーザは時間とともに変化する正弦波を表しており、対応する回転する矢印があります。インピーダンスは素子の性質を表す定数で、回転しません。同じ複素平面に矢印として描くことはありますが、区別のために別の図に描きます。
まとめ¶
- 抵抗では電圧と電流が同相、インダクタでは電流が 90° 遅れ、キャパシタでは電流が 90° 進む。
- リアクタンス:\(X_L = \omega L\)(周波数に比例)、\(X_C = 1/(\omega C)\)(周波数に反比例)。
- インピーダンス \(\dot{Z} = \dot{V}/\dot{I}\) は交流での「流れにくさ」と位相のずれを 1 個の複素数で表す。\(\dot{Z}_R = R\)、\(\dot{Z}_L = j\omega L\)、\(\dot{Z}_C = 1/(j\omega C)\)。
- アドミタンス \(\dot{Y} = 1/\dot{Z} = G + jB\) は「流れやすさ」を表す。
練習¶
確認:スピーカーの高音用ユニットには、直列にコンデンサが入っていることがあります。何のためですか
コンデンサのリアクタンスは周波数が低いほど大きいので、低い音の電流を通しにくく、高い音の電流だけを通します。低音の大きな電流が小型の高音用ユニットに流れ込むのを防ぐためです。周波数によって通りやすさが変わる性質の利用例で、第11回の周波数特性につながります。