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第6回 フーリエ展開

この回の位置づけ

シラバス(電気回路III):ひずみ波交流1(教科書 続 電気回路の基礎 5章 5.1、5.2、5.3、配布資料)。フーリエ展開による解析について学ぶ。

必要な準備:準備3 角度と三角関数、準備4の積分の意味

この回の目標:周期的な波形が正弦波の和で表せることを説明でき、代表的な波形のフーリエ級数を使える。

ひずみ波とは

これまで、交流といえば正弦波でした。しかし実際の機器が扱う波形は、正弦波とは限りません。デジタル回路の方形波、電源回路の整流波形、インバータの出力、楽器の音などは、同じ形を周期的に繰り返しますが、正弦波ではありません。このような波を ひずみ波(非正弦波)と呼びます。

ひずみ波には、フェーザやインピーダンスがそのままでは使えません。インピーダンスは周波数ごとに値が違い、ひずみ波は 1 つの周波数の波ではないからです。

正弦波の足し合わせで表す

解決の鍵は、次の事実です。

フーリエ級数

周期 \(T\) で繰り返す波形は、周波数が \(\dfrac{1}{T}\) の整数倍である正弦波の和として表せる。

\[ f(t) = a_0 + \sum_{n=1}^{\infty}\left(a_n\cos n\omega t + b_n\sin n\omega t\right), \qquad \omega = \frac{2\pi}{T} \]

各項には名前があります。

  • \(a_0\):直流分(波形の平均値)
  • \(n = 1\) の項:基本波(元の波形と同じ周期を持つ正弦波)
  • \(n \ge 2\) の項:高調波(周波数が基本波の \(n\) 倍。第 \(n\) 次高調波、第 \(n\) 調波と呼ぶ)

スライダで足し合わせる項を増やしていくと、正弦波だけを足しているのに、方形波や三角波に近づいていきます。

たとえ:楽器の音色

ピアノとバイオリンで同じ高さの音を出しても、音色が違います。音の高さを決めているのが基本波で、音色の違いは、含まれている高調波(倍音)の割合の違いです。フーリエ展開は、音を「どの高さの成分がどれだけ入っているか」に分ける操作で、音楽プレーヤーのスペクトル表示(棒が上下する画面)は、これを時々刻々と行った結果です。

料理にたとえれば、味を材料ごとの分量に分けたレシピにあたります。シミュレータの下の棒グラフが、その分量表(スペクトル)です。

sin と cos の項は、1 つにまとめて書くこともできます。

\[ a_n\cos n\omega t + b_n\sin n\omega t = c_n\sin(n\omega t + \theta_n), \qquad c_n = \sqrt{a_n^2 + b_n^2} \]

\(c_n\) が第 \(n\) 次高調波の最大値です。

係数の求め方

係数は、次の積分で求まります。

\[ a_0 = \frac{1}{T}\int_0^T f(t)\,dt, \qquad a_n = \frac{2}{T}\int_0^T f(t)\cos n\omega t\,dt, \qquad b_n = \frac{2}{T}\int_0^T f(t)\sin n\omega t\,dt \]

\(a_0\) は、1 周期にわたる平均です。\(a_n\) と \(b_n\) の式は、「\(f(t)\) に、調べたい成分と同じ形の波をかけて平均する」という操作です。

この操作で特定の成分だけが取り出せる理由は、周波数の異なる正弦波どうしをかけて 1 周期にわたって平均すると、必ず 0 になるからです。山と谷の位置がずれていくので、正の部分と負の部分が打ち消し合います。同じ周波数どうしのときだけ、積が常に正(\(\sin^2\))になって、平均が 0 になりません。\(f(t)\) に \(\sin n\omega t\) をかけて平均すると、\(f(t)\) に含まれる成分のうち、第 \(n\) 次の \(\sin\) 成分だけが残ります。

ラジオの選局で、多くの放送局の電波の中から 1 つの周波数だけを取り出すのと同じ働きです。

波形の対称性を利用する

波形に対称性があると、計算する前に、いくつかの係数が 0 になることがわかります。

対称性 条件 現れる成分 例
奇関数(原点に関して点対称) \(f(-t) = -f(t)\) \(\sin\) の項だけ(\(a_0 = a_n = 0\)) 方形波、のこぎり波
偶関数(縦軸に関して線対称) \(f(-t) = f(t)\) 直流分と \(\cos\) の項だけ(\(b_n = 0\)) 全波整流波
半波対称(半周期ずらすと上下が反転) \(f(t + T/2) = -f(t)\) 奇数次の項だけ 方形波、三角波

\(\sin\) は奇関数、\(\cos\) は偶関数なので、奇関数の波形は \(\sin\) だけ、偶関数の波形は \(\cos\) だけで作られます。半波対称の波形に偶数次の成分が含まれないのは、偶数次の正弦波は半周期ずらしても元と同じ形で、「ずらすと反転する」という性質を持てないからです。

時間の原点の取り方を変えると、同じ波形でも奇関数になったり偶関数になったりします。計算しやすい位置に原点を選びます。

代表的な波形のフーリエ級数

振幅を \(A\) とします。

波形 フーリエ級数 特徴
方形波 \(\dfrac{4A}{\pi}\left(\sin\omega t + \dfrac{1}{3}\sin 3\omega t + \dfrac{1}{5}\sin 5\omega t + \cdots\right)\) 奇数次のみ。\(1/n\) で減少
三角波 \(\dfrac{8A}{\pi^2}\left(\sin\omega t - \dfrac{1}{3^2}\sin 3\omega t + \dfrac{1}{5^2}\sin 5\omega t - \cdots\right)\) 奇数次のみ。\(1/n^2\) で減少
のこぎり波 \(\dfrac{2A}{\pi}\left(\sin\omega t - \dfrac{1}{2}\sin 2\omega t + \dfrac{1}{3}\sin 3\omega t - \cdots\right)\) すべての次数。\(1/n\) で減少
全波整流波 \(\dfrac{2A}{\pi} - \dfrac{4A}{\pi}\left(\dfrac{1}{3}\cos 2\omega t + \dfrac{1}{15}\cos 4\omega t + \dfrac{1}{35}\cos 6\omega t + \cdots\right)\) 直流分と偶数次のみ

(全波整流波の \(\omega\) は、整流する前の正弦波の角周波数です。)

方形波と三角波を比べると、三角波のほうが高調波が急速に小さくなります。波形に急な飛び(不連続)があると、それを作るために高い次数の成分が多く必要になり、なめらかな波形ほど高調波が少なくなります。

方形波の係数の計算

\(0 < t < T/2\) で \(+A\)、\(T/2 < t < T\) で \(-A\) の方形波は奇関数で、\(a_0 = a_n = 0\) です。

\[ b_n = \frac{2}{T}\left(\int_0^{T/2} A\sin n\omega t\,dt - \int_{T/2}^{T} A\sin n\omega t\,dt\right) = \frac{2A}{n\pi}\left(1 - \cos n\pi\right) \]

\(\cos n\pi\) は、\(n\) が奇数なら \(-1\)、偶数なら \(+1\) なので

\[ b_n = \begin{cases} \dfrac{4A}{n\pi} & (n \text{ が奇数}) \\ 0 & (n \text{ が偶数}) \end{cases} \]

ギブス現象

方形波のシミュレータで項を増やしていくと、飛びの前後に小さな行き過ぎ(とがった山)が残ります。項を増やすと山の幅は狭くなりますが、高さは飛びの大きさの約 9% のまま小さくなりません。不連続な波形を有限個の正弦波で表そうとするときに必ず現れる現象で、ギブス現象と呼ばれます。

まとめ

  • 周期波形は、直流分・基本波・高調波の和(フーリエ級数)で表せる。
  • 係数は「調べたい成分と同じ波をかけて平均する」ことで求まる。
  • 奇関数は \(\sin\) だけ、偶関数は \(\cos\) だけ、半波対称は奇数次だけ。
  • 方形波の第 \(n\) 次(奇数)の最大値は \(4A/(n\pi)\)。

練習