準備5 行列と行列式¶
電気回路II の後半(回路網方程式、2ポート回路)では、連立方程式をまとめて書くために行列を使います。行列は「数を長方形に並べて、ひとかたまりとして扱う書き方」で、新しい計算の考え方が増えるわけではありません。
行列は連立方程式の省略記法¶
準備2で扱った連立方程式
は、係数、未知数、右辺を別々にまとめて次のように書けます。
数を並べたかたまりを 行列 と呼びます。横の並びが 行、縦の並びが 列 です。左の行列は 2 行 2 列、未知数と右辺は 2 行 1 列で、縦 1 列だけの行列を ベクトル とも呼びます。
時刻表が「駅」と「列車」の 2 つの見出しで数を整理しているのと同じで、行列は「何番目の式の」「何番目の未知数の係数か」という 2 つの番号で数を整理したものです。
行列のかけ算¶
行列とベクトルのかけ算は、連立方程式の左辺が再現されるように決められています。行列の各行と、ベクトルを、順にかけて足します。
行列どうしのかけ算も同じ規則で、積の \(i\) 行 \(j\) 列は「左の行列の \(i\) 行」と「右の行列の \(j\) 列」を順にかけて足したものです。
かける順番を入れかえてはいけない
ふつうの数では \(2 \times 3 = 3 \times 2\) ですが、行列では一般に \(AB \neq BA\) です。「靴下をはいてから靴をはく」と「靴をはいてから靴下をはく」が違う結果になるのと同じで、行列は「操作」を表しており、操作の順番には意味があります。電気回路II 第13回の縦続接続では、回路をつなぐ順番がそのままかけ算の順番になります。
行列のたし算は、同じ位置の数どうしを足すだけです。
行列式¶
2 行 2 列の行列から、次の規則で 1 つの数を作ります。これを 行列式 と呼び、\(|A|\) または \(\det A\) と書きます。
右下がりの対角の積から、左下がりの対角の積を引きます(たすきがけ)。
行列式が 0 でないとき、連立方程式はただ 1 組の解を持ちます。行列式が 0 のときは、2 つの式が実質的に同じ内容(グラフでは平行な 2 本の直線)になっていて、解が決まりません。
3 行 3 列の行列式は、右下がりの 3 本の積を足し、左下がりの 3 本の積を引きます(サラスの方法)。
クラメルの公式¶
連立方程式の解は、行列式の比として書けます。\(k\) 番目の未知数は
です。上の例では
となり、準備2の結果と一致します。未知数が 3 個になっても同じ形で使えます。
逆行列¶
ふつうの数で \(ax = b\) を解くには、両辺に \(a\) の逆数 \(\frac{1}{a}\) をかけます。行列でこの逆数にあたるものが 逆行列 \(A^{-1}\) です。2 行 2 列では
となります。対角の 2 つを入れかえ、残りの 2 つの符号を変え、行列式で割ります。\(A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b}\) の解は \(\boldsymbol{x} = A^{-1}\boldsymbol{b}\) です。
電気回路II 第12回で、Z パラメータの行列と Y パラメータの行列が互いに逆行列の関係にあることを使います。「電圧 = 抵抗 × 電流」と「電流 = コンダクタンス × 電圧」が逆数の関係にあることを、行列に広げたものです。