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第6回 重ね合わせ・テブナン・ノートン

この回の位置づけ

シラバス:直流回路⑥(教科書 第6章 6.1–6.4)。直流回路網の諸定理(回路の線形性、重ね合わせの理、テブナンおよびノートン定理、電源の等価変換(定電流等価回路と定電圧等価回路))を学ぶ。

必要な準備:第3回の分圧・分流、第5回の回路

この回の目標:回路の一部分だけを知りたいときに、定理を使って連立方程式を立てずに答えを出せる。

キルヒホッフの法則はどの回路にも使えますが、網目が増えると連立方程式が大きくなります。この回で扱う定理は、回路の性質を利用して計算を小さく分割したり、回路を簡単な形に置きかえたりする方法です。

回路の線形性

抵抗と電源だけでできた回路には、線形性 と呼ばれる性質があります。内容は 2 つです。

  • 比例性:電源の値を 2 倍にすると、回路のすべての電圧と電流が 2 倍になる。
  • 加法性:電源が複数あるとき、各部の電圧と電流は、それぞれの電源が単独で働いたときの値の和になる。

この性質は、オームの法則 \(V = RI\) が比例の式であることから生じます。料理のレシピで材料をすべて 2 倍にすれば 2 倍の量ができるのと同じで、どの量も同じ割合で増えます。

電力には線形性がない

電力は \(P = I^2 R\) のように電流の 2 乗で決まるので、電流が 2 倍になると電力は 4 倍になります。電力は比例せず、足し合わせもできません。

重ね合わせの理

加法性を定理として述べたものが 重ね合わせの理 です。

重ね合わせの理

複数の電源を含む線形回路の各部の電圧・電流は、電源を 1 個ずつ働かせたときの値を、すべての電源について足し合わせたものに等しい。

2 人が 1 台の台車を押すとき、台車が受ける力は、1 人ずつ押したときの力の和です。向きが逆なら引き算になります。

電源を 1 個だけ働かせるとき、ほかの電源は次のように扱います。

  • 電圧源は短絡する(導線に置きかえる)。電圧が 0 の電圧源は、両端の電位差が 0、つまり導線と同じだからです。
  • 電流源は開放する(線を切る)。電流が 0 の電流源は、電流を通さない、つまり切れた線と同じだからです。

第5回と同じ回路で確かめます。チェックボックスで電源を 1 個ずつ働かせてください。

数値例:\(R_3\) の電流を求める

\(E_1 = 10\) V、\(E_2 = 4\) V、\(R_1 = 2\) Ω、\(R_2 = 4\) Ω、\(R_3 = 6\) Ω とします。

\(E_1\) だけ働かせる(\(E_2\) を短絡):\(R_2\) と \(R_3\) が並列になり \(\dfrac{4 \times 6}{4 + 6} = 2.4\) Ω。\(E_1\) から流れる電流は \(\dfrac{10}{2 + 2.4} = 2.27\) A。分流の式で \(R_3\) の分は \(2.27 \times \dfrac{4}{4 + 6} = 0.909\) A(下向き)。

\(E_2\) だけ働かせる(\(E_1\) を短絡):\(R_1\) と \(R_3\) が並列になり \(\dfrac{2 \times 6}{2 + 6} = 1.5\) Ω。\(E_2\) から流れる電流は \(\dfrac{4}{4 + 1.5} = 0.727\) A。\(R_3\) の分は \(0.727 \times \dfrac{2}{2 + 6} = 0.182\) A(下向き)。

足し合わせる:\(0.909 + 0.182 = 1.09\) A。第5回で連立方程式を解いた結果と一致します。

電源が 1 個の回路は第4回までの方法で解けるので、連立方程式を使わずに済みます。足し合わせるときは向きに注意し、逆向きなら引き算にします。

テブナンの定理

回路の中の 1 個の抵抗(負荷)だけに注目し、その値をいろいろ変えたときの電流を知りたい場面を考えます。負荷を変えるたびに回路全体を解き直すのは手間です。

テブナンの定理

電源と抵抗を含む回路を 2 つの端子 a、b から見ると、その回路は「1 個の電圧源 \(E_0\) と 1 個の抵抗 \(R_0\) の直列回路」と同じ働きをする。

  • \(E_0\):端子 a–b に何もつながないときの a–b 間の電圧(開放電圧)
  • \(R_0\):回路内の電源の働きを止めて(電圧源は短絡、電流源は開放)、a–b から回路を見たときの合成抵抗

箱の中にどれほど複雑な回路が入っていても、端子が 2 つなら、外から見た性質は「電池 1 個と抵抗 1 個」で表せるということです。この等価回路は、第2回の「内部抵抗を持つ実際の電源」と同じ形をしています。

端子 a–b に負荷 \(R_L\) をつないだときの電流は、等価回路から

\[ I = \frac{E_0}{R_0 + R_L} \]

と求まります。

数値例

\(E = 12\) V、\(R_1 = 4\) Ω、\(R_2 = 12\) Ω の回路を端子 a–b から見ます。

開放電圧:負荷を外すと、\(R_1\) と \(R_2\) の直列回路になります。a–b 間の電圧は \(R_2\) の両端の電圧なので、分圧の式から \(E_0 = 12 \times \dfrac{12}{4 + 12} = 9\) V。

内部抵抗:電圧源を短絡すると、a–b から見て \(R_1\) と \(R_2\) が並列です。\(R_0 = \dfrac{4 \times 12}{4 + 12} = 3\) Ω。

負荷電流:\(R_L = 5\) Ω をつなぐと \(I = \dfrac{9}{3 + 5} = 1.125\) A。\(R_L\) を別の値に変えても、この最後の式を計算し直すだけで足ります。

第3回の最大電力の条件と組み合わせると、「負荷に最大の電力を供給するには、\(R_L\) をテブナン等価回路の \(R_0\) に等しくすればよい」ということもわかります。

ノートンの定理

テブナンの定理と対になる定理です。

ノートンの定理

電源と抵抗を含む回路を 2 つの端子 a、b から見ると、その回路は「1 個の電流源 \(J_0\) と 1 個の抵抗 \(R_0\) の並列回路」と同じ働きをする。

  • \(J_0\):端子 a–b を導線で短絡したときに、その導線を流れる電流(短絡電流)
  • \(R_0\):テブナンの定理と同じ抵抗

負荷 \(R_L\) をつないだときの電流は、分流の式から \(I = J_0 \times \dfrac{R_0}{R_0 + R_L}\) です。

上の数値例では、a–b を短絡すると \(R_2\) には電流が流れなくなり(導線のほうが通りやすいため)、\(J_0 = \dfrac{12}{4} = 3\) A です。負荷 5 Ω をつなぐと \(I = 3 \times \dfrac{3}{3 + 5} = 1.125\) A で、テブナンの定理による結果と一致します。

電源の等価変換

テブナン等価回路とノートン等価回路は、同じ回路を表す 2 通りの書き方です。したがって、この 2 つは相互に変換できます。

\[ \text{電圧源 } E \text{ と直列抵抗 } r \quad\Longleftrightarrow\quad \text{電流源 } J = \frac{E}{r} \text{ と並列抵抗 } r \]

前者を 定電圧等価回路、後者を 定電流等価回路 と呼びます。抵抗の値はそのままで、直列か並列かが入れかわります。

負荷抵抗を変えても、左右の回路で負荷の電圧と電流が常に一致することを確かめてください。一方、内部の抵抗 \(r\) に流れる電流は左右で異なります(右の回路の灰色の粒)。等価なのは端子の外から見た性質であり、内部で消費する電力まで同じになるわけではありません。

この変換は、回路の形を変えて合成しやすくするために使います。並列につながった電圧源は、電流源に変換すれば電流の足し算でまとめられます。

どの方法を使うか

知りたいこと 向いている方法
回路のすべての枝の電流 網目電流法(第5回)
電源が複数ある回路の、ある 1 か所の値 重ね合わせの理
1 個の負荷に注目し、その値を変えたときの変化 テブナンの定理、ノートンの定理
電源と抵抗の組を合成しやすい形にしたい 電源の等価変換

どの方法でも同じ答えになります。1 つの方法で解いた後に別の方法で確かめると、検算になります。

まとめ

  • 線形回路では、電圧と電流に比例性と加法性が成り立つ(電力には成り立たない)。
  • 重ね合わせの理:電源を 1 個ずつ働かせて足す。止める電圧源は短絡、電流源は開放。
  • テブナンの定理:開放電圧 \(E_0\) と内部抵抗 \(R_0\) の直列回路に置きかえる。
  • ノートンの定理:短絡電流 \(J_0\) と内部抵抗 \(R_0\) の並列回路に置きかえる。\(E_0 = R_0 J_0\)。

練習