コンテンツにスキップ

第11回 不平衡三相回路

この回の位置づけ

シラバス(電気回路III):多相交流4(配布資料)。不平衡三相回路について学ぶ。

必要な準備:第9回、電気回路II 第10回の節点電圧方程式

この回の目標:負荷がそろっていない三相回路について、中性線がある場合とない場合の電圧・電流を計算できる。

平衡が崩れると何が変わるか

3 つの相の負荷のインピーダンスが等しくない回路、または電源が対称でない回路を 不平衡三相回路 と呼びます。家庭や事務所の電灯・コンセントのような単相の負荷を三相の各相に振り分けると、使われ方が相ごとに違うので、負荷は不平衡になります。

不平衡になると、「1 相分だけ計算すればよい」という単相等価回路の方法が使えません。3 つの相を、1 つの回路網としてまとめて解く必要があります。考え方として新しいものはなく、電気回路I・II の回路網の解析法をそのまま使います。

Y–Y 回路(中性線あり)

電源の中性点 N と負荷の中性点 N′ が、インピーダンスを無視できる中性線でつながっている場合です。N と N′ は同じ電位に保たれるので、各相の負荷には、電源の相電圧がそのままかかります。

\[ \dot{I}_a = \frac{\dot{E}_a}{\dot{Z}_a}, \qquad \dot{I}_b = \frac{\dot{E}_b}{\dot{Z}_b}, \qquad \dot{I}_c = \frac{\dot{E}_c}{\dot{Z}_c} \]

各相は独立した単相回路として計算できます。平衡回路との違いは、3 つの電流の和が 0 にならないことで、その分が中性線を流れます。

\[ \dot{I}_N = \dot{I}_a + \dot{I}_b + \dot{I}_c \]

シミュレータで「中性線をつなぐ」にチェックを入れると、負荷の値をどう変えても、各相の電圧が 100 V のまま変わらないことを確かめられます。中性線は、負荷の偏りを吸収して、各相の電圧を一定に保つ役割をしています。

Y–Y 回路(中性線なし)

中性線がないと、3 つの電流の和は必ず 0 でなければなりません。負荷がそろっていない状態でこの条件を満たすために、負荷の中性点 N′ の電位が、電源の中性点 N からずれます。

N を基準として、N′ の電位を \(\dot{V}_{N'}\) とします。N′ に流れ込む電流の和が 0 という条件(節点電圧方程式)を書くと

\[ \frac{\dot{E}_a - \dot{V}_{N'}}{\dot{Z}_a} + \frac{\dot{E}_b - \dot{V}_{N'}}{\dot{Z}_b} + \frac{\dot{E}_c - \dot{V}_{N'}}{\dot{Z}_c} = 0 \]

です。アドミタンス \(\dot{Y} = 1/\dot{Z}\) を使って \(\dot{V}_{N'}\) について解くと

\[ \dot{V}_{N'} = \frac{\dot{Y}_a\dot{E}_a + \dot{Y}_b\dot{E}_b + \dot{Y}_c\dot{E}_c}{\dot{Y}_a + \dot{Y}_b + \dot{Y}_c} \]

となります。これは電気回路II 第10回のミルマンの定理です。各相の起電力を、アドミタンスで重みをつけて平均した値になっています。

各相の負荷にかかる電圧と電流は

\[ \dot{V}_a' = \dot{E}_a - \dot{V}_{N'}, \qquad \dot{I}_a = \dot{Y}_a\,\dot{V}_a' \]

です(b 相、c 相も同様)。

数値例(シミュレータの初期設定)

相電圧 100 V の対称三相電源に、\(R_a = 20\) Ω、\(R_b = R_c = 50\) Ω の負荷を中性線なしでつなぎます。\(Y_a = 0.05\) S、\(Y_b = Y_c = 0.02\) S です。

\[ \dot{V}_{N'} = \frac{0.05 \times 100\angle 0° + 0.02 \times 100\angle(-120°) + 0.02 \times 100\angle 120°}{0.05 + 0.02 + 0.02} \]

\(100\angle(-120°) + 100\angle 120° = -100\) なので、分子は \(5 - 2 = 3\)。

\[ \dot{V}_{N'} = \frac{3}{0.09} = 33.3\angle 0°\ \text{V} \]
  • a 相の負荷電圧:\(100 - 33.3 = 66.7\) V(下がる)
  • b 相の負荷電圧:\(100\angle(-120°) - 33.3 = -83.3 - j86.6\)、大きさ 120 V(上がる)
  • c 相の負荷電圧:同じく 120 V

負荷の重い(抵抗の小さい)a 相の電圧が下がり、ほかの相の電圧が定格を超えています。

フェーザ図では、3 つの線の電位(正三角形の頂点)は電源で決まっていて動きません。負荷の中性点 N′ が、三角形の中心から、負荷の重い相の頂点のほうへ引き寄せられます。3 本のゴムひもで吊った結び目が、強いゴムのほうへ寄るのと同じです。

中性線が切れると危険

Y 結線で単相の負荷に供給しているとき、中性線が断線すると、上の例のように、負荷の軽い相の電圧が定格を大きく超えます。極端な場合、1 つの相の負荷がほとんどなければ、その相には線間電圧に近い電圧(\(\sqrt{3}\) 倍)がかかり、機器が壊れます。中性線にはヒューズやスイッチを入れない、という配線の規則は、このためです。

Δ 結線の不平衡負荷

負荷が Δ 結線の場合、各相には線間電圧が直接かかるので、線路のインピーダンスを無視できれば、相電流は相ごとに独立に求まります。

\[ \dot{I}_{ab} = \frac{\dot{V}_{ab}}{\dot{Z}_{ab}}, \qquad \dot{I}_{bc} = \frac{\dot{V}_{bc}}{\dot{Z}_{bc}}, \qquad \dot{I}_{ca} = \frac{\dot{V}_{ca}}{\dot{Z}_{ca}} \]

線電流は、つなぎ目での電流則から

\[ \dot{I}_a = \dot{I}_{ab} - \dot{I}_{ca}, \qquad \dot{I}_b = \dot{I}_{bc} - \dot{I}_{ab}, \qquad \dot{I}_c = \dot{I}_{ca} - \dot{I}_{bc} \]

です。不平衡なので「\(\sqrt{3}\) 倍」の関係は使えず、複素数の引き算を 1 つずつ行います。3 つの線電流の和は、式を足し合わせるとわかるとおり、必ず 0 になります。

線路にインピーダンスがある場合は、Δ 結線の負荷を Δ–Y 変換(電気回路I 第4回の一般の式)で Y 結線に直し、中性線なしの Y–Y 回路として解きます。

不平衡回路の電力

不平衡回路では、\(\sqrt{3}V_lI_l\cos\varphi\) の式は使えません。相ごとに電力を求めて足します。

\[ P = P_a + P_b + P_c = I_a^2 R_a + I_b^2 R_b + I_c^2 R_c \]

第10回の二電力計法は、3 線式であれば不平衡でもそのまま使えます。

対称座標法

不平衡な三相の電圧や電流を扱う、もう 1 つの方法を紹介します。どのような不平衡な 3 つのフェーザの組も、次の 3 種類の対称な組の和に分解できます。

  • 正相分:相順が a → b → c の対称三相
  • 逆相分:相順が a → c → b(逆回り)の対称三相
  • 零相分:3 相とも同じ大きさ・同じ位相

第6回のフーリエ展開が、複雑な波形を単純な正弦波の和に分けたのと同じ発想で、不平衡という複雑な状態を、単純な対称成分の和に分けます。それぞれの成分は対称なので、1 相分の計算で済みます。送電線の事故(1 線が地面に触れるなど)の解析に使われる方法で、詳細は電力工学の科目で扱われます。

まとめ

  • 中性線がある Y–Y 回路:各相は独立。中性線に \(\dot{I}_a + \dot{I}_b + \dot{I}_c\) が流れる。
  • 中性線がない Y–Y 回路:負荷の中性点の電位が \(\dot{V}_{N'} = \dfrac{\sum\dot{Y}\dot{E}}{\sum\dot{Y}}\) だけずれ、各相の電圧が不ぞろいになる。
  • Δ 結線の負荷:相電流を相ごとに求め、線電流はその差。
  • 電力は相ごとに求めて足す。

練習