コンテンツにスキップ

第10回 三相電力と V 結線

この回の位置づけ

シラバス(電気回路III):多相交流3(教科書 電気回路の基礎 23章 23.8、配布資料)。平衡三相交流の電力・V 結線について学ぶ。

必要な準備:第9回、電気回路I 第12回

この回の目標:平衡三相回路の電力を線間電圧と線電流から計算でき、V 結線の出力と利用率を説明できる。

三相電力

三相回路の電力は、3 つの相の電力の和です。平衡していれば、各相の電力は等しいので

\[ P = 3\,V_p I_p\cos\varphi \]

です。\(\varphi\) は 相電圧と相電流の位相差(負荷 1 相のインピーダンスの偏角)です。

実際の現場で測りやすいのは、線間電圧 \(V_l\) と線電流 \(I_l\) です。そこで、この 2 つで書き直します。

  • Y 結線:\(V_p = V_l/\sqrt{3}\)、\(I_p = I_l\) なので \(P = 3 \times \dfrac{V_l}{\sqrt{3}} \times I_l\cos\varphi\)
  • Δ 結線:\(V_p = V_l\)、\(I_p = I_l/\sqrt{3}\) なので \(P = 3 \times V_l \times \dfrac{I_l}{\sqrt{3}}\cos\varphi\)

どちらも同じ結果になります。

\[ P = \sqrt{3}\,V_l I_l\cos\varphi \ [\text{W}] \]

結線が Y でも Δ でも、同じ式で計算できます。 無効電力と皮相電力も同様です。

\[ Q = \sqrt{3}\,V_l I_l\sin\varphi \ [\text{var}], \qquad S = \sqrt{3}\,V_l I_l \ [\text{VA}] \]

\(\varphi\) は線間電圧と線電流の位相差ではない

式に \(V_l\) と \(I_l\) が入っていますが、\(\varphi\) は相電圧と相電流の位相差です。線間電圧と線電流の間には、さらに 30° のずれがあります。力率は、負荷 1 相のインピーダンスから \(\cos\varphi = R/|\dot{Z}|\) で求めます。

瞬時電力は一定

単相交流の瞬時電力は、電源の 2 倍の周波数で脈動していました(電気回路I 第12回)。三相では、3 つの相の瞬時電力を合計すると、脈動が打ち消し合います。

各相の瞬時電力は

\[ p_a = V_pI_p\cos\varphi - V_pI_p\cos(2\omega t - \varphi) \]

の形で、b 相と c 相では第 2 項の位相が 240°、480°(=120°)ずつずれます。120° ずつずれた 3 つの正弦波の和は 0 なので、第 2 項はすべて消え

\[ p = p_a + p_b + p_c = 3\,V_pI_p\cos\varphi \qquad \text{(時間によらず一定)} \]

となります。

1 人で自転車をこぐと、ペダルを踏み込むたびに力がかかり、進み方にむらが出ます。3 人が踏み込むタイミングを 1/3 ずつずらしてこげば、力はならされて一定になります。三相モーターが単相モーターより振動が少なく、なめらかに回るのはこのためです。

電力の測定:二電力計法

三相 3 線式の回路の電力は、2 台の電力計で測れます。1 台目の電力計に線 a の電流と a–c 間の電圧、2 台目に線 b の電流と b–c 間の電圧をつなぐと、2 台の指示の和が三相電力になります。

\[ P = W_1 + W_2 \]

平衡回路では、それぞれの指示は \(W_1 = V_lI_l\cos(30° - \varphi)\)、\(W_2 = V_lI_l\cos(30° + \varphi)\) です(どちらがどちらになるかは相順によります)。2 つの指示の差から無効電力(\(Q = \sqrt{3}(W_1 - W_2)\))もわかります。力率が 0.5 より低い(\(\varphi > 60°\))と、一方の指示が負になります。

2 台で足りる理由は、線が 3 本なら \(i_a + i_b + i_c = 0\) で、独立な電流が 2 つしかないからです。この方法は、平衡していない回路でも成り立ちます。

V 結線

三相の電力を変圧する方法の 1 つに、単相変圧器 3 台を Δ 結線にする方法があります。このうち 1 台を取り除き、2 台だけで三相電力を供給する 結線を V 結線 と呼びます。回路図で、2 台の変圧器が V の字に見えることからの名前です。

2 台しかなくても、三相の線間電圧は 3 つともそろいます。a–b 間と b–c 間に変圧器があれば、残りの c–a 間の電圧は、閉路を一周した電圧の和が 0 であることから

\[ \dot{V}_{ca} = -(\dot{V}_{ab} + \dot{V}_{bc}) \]

と決まり、これは対称三相の 3 つ目の電圧に一致します(\(\dot{V}_{ab} + \dot{V}_{bc} + \dot{V}_{ca} = 0\) のため)。三角形の 2 辺が決まれば、3 つ目の辺は自動的に決まるということです。

出力と利用率

変圧器 1 台の定格を、電圧 \(V\)、電流 \(I\)(容量 \(VI\) [VA])とします。

Δ 結線(3 台)では、線電流は変圧器の電流の \(\sqrt{3}\) 倍まで流せるので、出力は \(\sqrt{3}\,V \times \sqrt{3}\,I = 3VI\) です。

V 結線(2 台)では、線が変圧器に直接つながっているので、線電流は変圧器の定格電流 \(I\) までしか流せません。出力は

\[ P_V = \sqrt{3}\,V I \]

です。

変圧器の台数 設備の容量 三相出力 利用率
Δ 結線 3 \(3VI\) \(3VI\) 100%
V 結線 2 \(2VI\) \(\sqrt{3}VI\) \(\dfrac{\sqrt{3}}{2} = 86.6\%\)

利用率(出力 ÷ 設備の容量)は 86.6% です。2 台分の容量を持ちながら、\(\sqrt{3} = 1.73\) 台分しか使えません。2 台の変圧器の電圧と電流の位相が 30° ずつずれた状態で働くため、容量を使い切れないからです。

Δ 結線の出力と比べると

\[ \frac{P_V}{P_\Delta} = \frac{\sqrt{3}VI}{3VI} = \frac{1}{\sqrt{3}} = 57.7\% \]

です。台数は 2/3 になりますが、出力は 57.7% に下がります。

V 結線は、次のような場面で使われます。

  • Δ 結線の 3 台のうち 1 台が故障したとき、残りの 2 台で(出力を落として)運転を続ける。
  • 将来の負荷の増加を見込んで、はじめは 2 台で始め、後から 1 台を追加して Δ 結線にする。
  • 電柱の上で、単相の負荷(電灯)と三相の負荷(動力)の両方に、2 台の変圧器で供給する。

まとめ

  • 平衡三相電力:\(P = 3V_pI_p\cos\varphi = \sqrt{3}V_lI_l\cos\varphi\)。結線によらない。
  • \(\varphi\) は相電圧と相電流の位相差。
  • 三相の瞬時電力の合計は、時間によらず一定。
  • V 結線の出力は \(\sqrt{3}VI\)。利用率 86.6%、Δ 結線に対する出力比 57.7%。

練習