第9回 平衡三相回路¶
この回の位置づけ
シラバス(電気回路III):多相交流2(教科書 電気回路の基礎 23章 23.6、23.7、配布資料)。平衡三相回路の Y–Y 回路、Δ–Δ 回路について学ぶ。
この回の目標:平衡三相回路を、1 相分の単相回路に直して計算できる。
平衡三相回路¶
電源が対称三相で、3 つの相の負荷のインピーダンスがすべて等しい回路を 平衡三相回路 と呼びます。平衡していれば、3 つの相で起こることは、位相が 120° ずつずれているだけで、同じです。1 相分だけを計算すれば、残りの 2 相の結果は位相をずらすだけで得られます。
電源と負荷のつなぎ方の組み合わせで、Y–Y、Δ–Δ、Y–Δ、Δ–Y の 4 通りの回路があります。
Y–Y 回路¶
電源も負荷も Y 結線の回路です。電源の中性点 N と負荷の中性点 N′ を、中性線でつないだ場合を考えます。
各相は、電源 \(\dot{E}_a\) → 線 → 負荷 \(\dot{Z}\) → 中性線 → 電源、という独立した閉路になっています。各相の電流は
で、これも対称三相になります。中性線を流れる電流は、3 つの和です。
平衡していれば、中性線には電流が流れません。 電流が流れない線は、あってもなくても同じなので、中性線を取り除いても回路の状態は変わりません。このとき、2 つの中性点 N と N′ は同じ電位です。
単相等価回路¶
N と N′ が同じ電位なので、両者が導線でつながっていると考えて、a 相だけを取り出した回路を描けます。
これを 単相等価回路 と呼びます。この回路を電気回路I の方法で解けば、線電流(=相電流)が求まります。線路にインピーダンス \(\dot{Z}_l\) がある場合は、負荷と直列に加えるだけです。
例題(シミュレータの初期設定)
線間電圧 200 V の対称三相電源に、1 相あたり \(\dot{Z} = 8 + j6\) Ω の負荷を Y 結線でつなぎます。
- 相電圧:\(V_p = 200/\sqrt{3} = 115.5\) V
- \(|\dot{Z}| = \sqrt{8^2 + 6^2} = 10\) Ω、力率 \(\cos\varphi = 8/10 = 0.8\)(遅れ)
- 相電流(=線電流):\(I = 115.5/10 = 11.55\) A(相電圧より 36.9° 遅れ)
- 1 相の電力:\(I^2 R = 11.55^2 \times 8 = 1067\) W。三相で \(3 \times 1067 = 3200\) W
Δ–Δ 回路¶
電源も負荷も Δ 結線の回路です。負荷の各相には、線間電圧がそのままかかります。
例題
同じ電源に、同じ \(\dot{Z} = 8 + j6\) Ω を Δ 結線でつなぎます(シミュレータで結線を切りかえてください)。
- 相電圧 = 線間電圧 = 200 V
- 相電流:\(I_p = 200/10 = 20\) A
- 線電流:\(I_l = \sqrt{3} \times 20 = 34.6\) A
- 三相の電力:\(3 \times 20^2 \times 8 = 9600\) W
Y 結線のときと比べると、線電流も電力も 3 倍 になっています。各相にかかる電圧が \(\sqrt{3}\) 倍になるので相電流が \(\sqrt{3}\) 倍、さらに線電流が相電流の \(\sqrt{3}\) 倍になるからです。
大型のモーターの始動に使われる Y–Δ 始動法は、この性質を利用しています。始動時は巻線を Y 結線にして電流を 1/3 に抑え、回転が上がってから Δ 結線に切りかえます。
Δ 結線の負荷を Y 結線に換算する¶
Δ 結線には中性点がないので、そのままでは単相等価回路が描けません。電気回路I 第4回の Δ–Y 変換を使うと、Δ 結線の負荷を、外から見て同じ働きをする Y 結線の負荷に置きかえられます。3 つのインピーダンスが等しいときは
です。
電源が Δ 結線の場合も、線間電圧が同じになる Y 結線の電源(相電圧 \(V_l/\sqrt{3}\)、位相は 30° 遅れ)に置きかえて考えます。
平衡三相回路を解く手順
- Δ 結線の負荷を、Y 結線に換算する(\(\dot{Z}_\Delta / 3\))。
- 電源を Y 結線に換算する(相電圧 = 線間電圧 \(/\sqrt{3}\))。
- a 相だけの単相等価回路を描き、線電流を求める。
- 必要なら、もとの Δ 結線の相電流(線電流 \(/\sqrt{3}\))や相電圧に戻す。
- b 相、c 相は、位相を 120°、240° 遅らせるだけ。
手順の確認
上の Δ–Δ の例題を、この手順で解きます。負荷を Y に換算すると \(\dot{Z}_Y = (8 + j6)/3\) Ω で、大きさは \(10/3\) Ω。相電圧は 115.5 V。線電流は \(115.5 \div (10/3) = 34.6\) A で、直接求めた結果と一致します。
線路のインピーダンスがある場合や、Y 結線の負荷と Δ 結線の負荷が並列につながっている場合には、この手順が特に役立ちます。全部を Y に直してしまえば、1 相分は直列・並列の合成で解ける単相回路になります。
まとめ¶
- 平衡三相回路では、中性線の電流は 0 で、電源と負荷の中性点は同じ電位。
- 1 相分を取り出した単相等価回路(相電圧と 1 相のインピーダンス)で計算できる。
- Δ 結線の負荷は \(\dot{Z}_\Delta/3\) の Y 結線に換算する。
- 同じインピーダンスを Y から Δ につなぎかえると、線電流と電力は 3 倍になる。