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第7回 ひずみ波の電圧・電流・電力

この回の位置づけ

シラバス(電気回路III):ひずみ波交流2(教科書 続 電気回路の基礎 5章 5.4、5.5、配布資料)。電圧・電流の計算について学ぶ。

必要な準備:第6回、電気回路I 第9回〜第12回

この回の目標:ひずみ波の実効値、ひずみ率、電力を計算でき、ひずみ波電圧を加えた回路の電流を求められる。

ひずみ波の実効値

実効値は「2 乗して、平均して、平方根をとる」値でした(電気回路I 第8回)。ひずみ波

\[ v(t) = V_0 + \sqrt{2}V_1\sin(\omega t + \theta_1) + \sqrt{2}V_2\sin(2\omega t + \theta_2) + \cdots \]

(\(V_0\) は直流分、\(V_n\) は第 \(n\) 次の実効値)を 2 乗すると、同じ次数どうしの積と、異なる次数どうしの積が現れます。第6回で見たとおり、異なる周波数の正弦波の積は平均すると 0 になるので、残るのは同じ次数どうしの項だけです。

\[ V = \sqrt{V_0^2 + V_1^2 + V_2^2 + V_3^2 + \cdots} \]

ひずみ波の実効値は、各成分の実効値の 2 乗の和の平方根 です。成分の実効値をそのまま足すのではありません。直角に交わる辺の長さから斜辺を求める三平方の定理と同じ形で、周波数の異なる成分は互いに「直交」しているといえます。

例

直流分 3 V、基本波の実効値 4 V の電圧の実効値は \(\sqrt{3^2 + 4^2} = 5\) V です。7 V ではありません。

ひずみ率

波形が正弦波からどれだけずれているかを表す量が ひずみ率 です。

\[ k = \frac{\text{高調波全体の実効値}}{\text{基本波の実効値}} = \frac{\sqrt{V_2^2 + V_3^2 + V_4^2 + \cdots}}{V_1} \]

正弦波なら 0 です。オーディオ機器の性能表にある「全高調波ひずみ率(THD)」は、この値を百分率で表したものです。

方形波のひずみ率

振幅 \(A\) の方形波の実効値は \(A\)(2 乗すると常に \(A^2\))です。基本波の実効値は \(\dfrac{4A}{\pi\sqrt{2}} = 0.900A\) なので、高調波全体の実効値は \(\sqrt{A^2 - (0.900A)^2} = 0.435A\)。ひずみ率は \(0.435 / 0.900 = 0.483\)、つまり 48.3% です。

波形の特徴を表す量には、ほかに次のものがあります。

\[ \text{波高率} = \frac{\text{最大値}}{\text{実効値}}, \qquad \text{波形率} = \frac{\text{実効値}}{\text{平均値}} \]

正弦波では波高率が \(\sqrt{2} = 1.414\)、波形率が \(\dfrac{\pi}{2\sqrt{2}} = 1.11\) です。方形波ではどちらも 1 です。

ひずみ波の電力

電圧と電流がともにひずみ波のとき、瞬時電力 \(p = vi\) を 1 周期にわたって平均します。ここでも、異なる次数の電圧と電流の積は平均すると 0 になり、同じ次数どうしの組だけが残ります。

\[ P = V_0 I_0 + V_1 I_1\cos\varphi_1 + V_2 I_2\cos\varphi_2 + V_3 I_3\cos\varphi_3 + \cdots \]

\(\varphi_n\) は、第 \(n\) 次の電圧と電流の位相差です。電力は、次数ごとの電力の和 になります。

次数が違う電圧と電流は、電力を生まない

第 3 次の電圧と第 5 次の電流の間では、平均の電力は 0 です。電圧が正弦波(基本波だけ)なら、電流にどれだけ高調波が含まれていても、電力に寄与するのは基本波の電流だけです。

皮相電力は \(S = VI\)(全体の実効値の積)、力率は \(\dfrac{P}{S}\) で定義します。高調波があると、同じ次数どうしの位相差がすべて 0 であっても、力率が 1 より小さくなることがあります。電力に寄与しない成分が実効値を押し上げるからです。

ひずみ波を加えた回路の計算

線形回路には重ね合わせの理が使えます。ひずみ波の電源は、「直流の電源」「基本波の電源」「第 2 次の電源」…を直列につないだものとみなせるので、成分ごとに別々に解いて、結果を足し合わせます。

計算の手順

  1. 電源のひずみ波を、フーリエ級数で成分に分ける。
  2. 成分ごとに、その周波数でのインピーダンスを計算する。第 \(n\) 次では \(\dot{Z}_n = R + j\left(n\omega L - \dfrac{1}{n\omega C}\right)\)。
  3. 成分ごとに、フェーザ法で電流を求める(直流分は、L を短絡、C を開放として求める)。
  4. 各成分を 瞬時値(時間の式)に戻してから 足し合わせる。
  5. 実効値は 2 乗和の平方根、電力は次数ごとの電力の和で求める。

手順 2 が要点です。インダクタのリアクタンスは次数に比例して大きくなり(\(n\omega L\))、コンデンサのリアクタンスは次数に反比例して小さくなります(\(\dfrac{1}{n\omega C}\))。同じ回路でも、次数ごとにインピーダンスが違います。

手順 4 では、周波数の違うフェーザどうしを足すことはできません(回転の速さが違うので、矢印の位置関係が時間とともに変わるため)。必ず時間の式に戻します。

方形波の電圧を R–L 直列回路に加えると、電流は電圧より丸みを帯びた波形になります。インダクタが高い次数の成分ほど通しにくいので、電流に含まれる高調波の割合が電圧より小さくなるからです。インダクタンスを大きくすると、電流は三角波に近づいていきます。回路を R–C 直列に切りかえると、逆に高調波が強調され、電流は電圧の変わり目で鋭くとがった波形になります。

数値例(シミュレータの初期設定)

振幅 100 V、50 Hz の方形波を、\(R = 20\) Ω、\(L = 50\) mH の直列回路に加えます。\(\omega L = 15.7\) Ω です。

次数 電圧の最大値 \(\dfrac{4 \times 100}{n\pi}\) \(\dot{Z}_n = 20 + j\,15.7n\) 電流の最大値 位相の遅れ
1 127.3 V \(20 + j15.7\)(25.4 Ω) 5.01 A 38.1°
3 42.4 V \(20 + j47.1\)(51.2 Ω) 0.83 A 67.0°
5 25.5 V \(20 + j78.5\)(81.0 Ω) 0.31 A 75.7°

電圧では第 3 次が基本波の 1/3 ありますが、電流では約 1/6 に減っています。

\[ i(t) = 5.01\sin(\omega t - 38.1°) + 0.83\sin(3\omega t - 67.0°) + 0.31\sin(5\omega t - 75.7°) + \cdots\ [\text{A}] \]

電流の実効値は \(\sqrt{(5.01^2 + 0.83^2 + 0.31^2 + \cdots)/2} \approx 3.6\) A、消費電力は \(I^2 R \approx 260\) W です(シミュレータの表示で、より高い次数まで含めた値を確認できます)。

高調波と共振

L と C を含む回路では、基本波では共振していなくても、ある次数の高調波の周波数が共振周波数に一致することがあります。\(n\omega L = \dfrac{1}{n\omega C}\) となる次数 \(n\) です。その次数の成分だけが大きな電流になり、波形が大きくゆがみます。

電力系統では、整流器やインバータなどの機器が高調波電流を発生させます。力率改善用のコンデンサ(電気回路I 第12回)と系統のインダクタンスが特定の次数で共振すると、コンデンサに過大な電流が流れて故障の原因になります。これを防ぐために、コンデンサに直列にリアクトル(インダクタ)を入れて、共振する次数をずらす対策がとられています。

まとめ

  • ひずみ波の実効値:\(V = \sqrt{V_0^2 + V_1^2 + V_2^2 + \cdots}\)。
  • ひずみ率:高調波全体の実効値 ÷ 基本波の実効値。
  • 電力:\(P = V_0I_0 + \sum V_nI_n\cos\varphi_n\)。同じ次数どうしの組だけが電力を生む。
  • 回路計算は、次数ごとにインピーダンスを計算して解き、瞬時値に戻して足し合わせる。

練習