コンテンツにスキップ

第9回 閉路電流方程式

この回の位置づけ

シラバス(電気回路II):線形回路の解析②(教科書 第5章 5.3、第16章 16.4、配布資料)。回路網における閉路電流とその性質について学び、閉路電流方程式の組み立て方について学ぶ。

必要な準備:第8回、準備5 行列と行列式、電気回路I 第5回の網目電流法

この回の目標:任意の回路について、閉路電流方程式を行列の形で、回路図から直接書き下せる。

閉路電流とは

第8回で、補木の枝の電流を決めれば、すべての枝の電流が決まることを見ました。補木の枝の電流は、その枝が作る基本閉路をぐるりと一周して流れる電流と考えることができます。これを 閉路電流 と呼びます。

電気回路I の網目電流は、閉路として網目(内側にほかの閉路を含まない最小の閉路)を選んだ場合の閉路電流です。平面に描ける回路では、網目を選ぶのがもっとも簡単です。

閉路電流には次の性質があります。

  • 各枝の実際の電流は、その枝を通る閉路電流の和(向きが逆なら差)になる。
  • 閉路電流は、節点に入った後で必ず出ていくので、電流則を自動的に満たす。

したがって、残る条件は電圧則だけで、閉路の数(\(b - n + 1\))だけ式を立てれば足ります。

方程式の形

3 つの網目を持つ回路で考えます。

各網目で、時計回りに電圧則を立てます。網目 1 では、\(R_1\) に \(I_1\)、\(R_2\) に \(I_1 - I_2\) が流れるので

\[ R_1 I_1 + R_2 (I_1 - I_2) = E \]

です。網目 2、網目 3 も同様に立てて、未知数ごとに整理すると

\[ \begin{bmatrix} R_1 + R_2 & -R_2 & 0 \\ -R_2 & R_2 + R_3 + R_4 & -R_4 \\ 0 & -R_4 & R_4 + R_5 + R_6 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} I_1 \\ I_2 \\ I_3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} E \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} \]

となります。これが 閉路電流方程式(閉路方程式)です。

回路図から直接書き下す規則

上の行列には規則性があります。交流回路にも使えるように、抵抗をインピーダンスと読みかえて書きます。

\[ \begin{bmatrix} \dot{Z}_{11} & \dot{Z}_{12} & \dot{Z}_{13} \\ \dot{Z}_{21} & \dot{Z}_{22} & \dot{Z}_{23} \\ \dot{Z}_{31} & \dot{Z}_{32} & \dot{Z}_{33} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \dot{I}_1 \\ \dot{I}_2 \\ \dot{I}_3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \dot{E}_1 \\ \dot{E}_2 \\ \dot{E}_3 \end{bmatrix} \]

係数の決め方

  • 対角の要素 \(\dot{Z}_{ii}\)(自己インピーダンス):閉路 \(i\) を一周する間に通るインピーダンスの 合計。
  • 対角以外の要素 \(\dot{Z}_{ij}\)(相互インピーダンス):閉路 \(i\) と閉路 \(j\) が 共有する枝 のインピーダンス。2 つの閉路電流がその枝を逆向きに流れるなら 負、同じ向きなら 正。共有する枝がなければ 0。
  • 右辺 \(\dot{E}_i\):閉路 \(i\) の中にある起電力の合計。閉路電流を流そうとする向き(閉路の向きにたどって − から + へ通る)なら正、逆なら負。

すべての閉路電流を時計回りにそろえた網目電流法では、隣り合う網目の電流は共有する枝を必ず逆向きに流れるので、対角以外の要素はすべて負(または 0)になります。

行列は 左右対称(\(\dot{Z}_{ij} = \dot{Z}_{ji}\))になります。閉路 \(i\) と \(j\) が共有する枝は、\(j\) と \(i\) が共有する枝と同じだからです。書き下した行列が対称になっていなければ、どこかで間違えています。

シミュレータの行列で、対角に「一周の抵抗の和」、その隣に「共有する抵抗にマイナス」が入っていること、網目 1 と網目 3 は隣り合っていないので 0 になっていることを確かめてください。

解き方

未知数が 3 個の連立方程式は、準備5のクラメルの公式で解けます。

数値例(シミュレータの初期設定)

\(E = 12\) V、\(R_1 = 2\)、\(R_2 = 6\)、\(R_3 = 3\)、\(R_4 = 6\)、\(R_5 = 4\)、\(R_6 = 2\) Ω のとき

\[ \begin{bmatrix} 8 & -6 & 0 \\ -6 & 15 & -6 \\ 0 & -6 & 12 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} I_1 \\ I_2 \\ I_3 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 12 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} \]

係数行列の行列式(サラスの方法): \(8 \times 15 \times 12 + 0 + 0 - 0 - (-6)(-6)\times 12 - 8 \times (-6)(-6) = 1440 - 432 - 288 = 720\)

\(I_1\):1 列目を右辺で置きかえると、行列式は \(12 \times (15 \times 12 - 36) = 12 \times 144 = 1728\)。\(I_1 = 1728 / 720 = 2.4\) A

\(I_3\):3 列目を右辺で置きかえると、行列式は \(12 \times \{(-6)(-6) - 0\} = 432\)。\(I_3 = 432 / 720 = 0.6\) A

\(I_2\):3 行目の式 \(-6 I_2 + 12 I_3 = 0\) から \(I_2 = 2 I_3 = 1.2\) A

この回路は直並列回路でもあるので、合成抵抗でも確かめられます。右端から順にまとめると \(R_5 + R_6 = 6\)、\(6 \parallel 6 = 3\)、\(3 + R_3 = 6\)、\(6 \parallel 6 = 3\)、\(3 + R_1 = 5\) Ω で、電源の電流は \(12 / 5 = 2.4\) A となり一致します。

交流回路と相互誘導を含む場合

交流回路では、同じ規則で複素数の行列を作ります(電気回路I 第13回)。

相互誘導で結合したコイルが別々の閉路にある場合は、相互インピーダンスに \(\pm j\omega M\) が加わります。第2回の結合コイルの式

\[ \dot{V}_1 = j\omega L_1\dot{I}_1 + j\omega M\dot{I}_2, \qquad \dot{V}_2 = j\omega M\dot{I}_1 + j\omega L_2\dot{I}_2 \]

は、それ自体が 2 つの閉路の閉路方程式になっています。枝を共有していなくても、磁束を共有していれば相互インピーダンスが生じるということです。

電流源を含む場合

閉路電流方程式は電圧則の式なので、電流源があると、その両端の電圧がわからず、式が立てられません。対処は 2 通りあります。

  • 電流源に並列の抵抗があれば、電気回路I 第6回の等価変換で電圧源に直してから立てる。
  • 電流源が 1 つの閉路だけに含まれるように閉路を選ぶ。その閉路電流は電流源の値そのものなので、未知数が 1 つ減る。

電流源が多い回路は、次回の節点電圧方程式のほうが向いています。

まとめ

  • 閉路電流を未知数にすると、電流則は自動的に満たされ、電圧則の式だけを \(b - n + 1\) 本立てればよい。
  • 対角要素は閉路を一周するインピーダンスの和、対角以外は共有する枝のインピーダンス(逆向きなら負)、右辺は閉路内の起電力の和。
  • 係数行列は対称になる。

練習