第14回 交流回路の演習とまとめ¶
この回の位置づけ
シラバス:交流回路⑦ 演習・全体のまとめ。基本的な交流回路と線形回路の解析に関する演習を行い、解説する。授業のまとめ。
この回の目標:第8〜13回の内容を、問題を見て手順を選び、最後まで計算できる状態にする。講義全体の構成を説明できる。
講義全体の構成¶
14 回の内容は、次の 1 つの筋でつながっています。
- 電気の現象を、電圧・電流と、素子ごとの関係式(R・L・C)で表す。(第1〜2回)
- 素子をつないだ回路では、キルヒホッフの 2 つの法則が成り立つ。(第5回)
- この 2 つから、合成・分圧・分流などの公式と、重ね合わせ・テブナンなどの定理が導かれる。(第3、4、6回)
- 交流では、正弦波をフェーザ(複素数)で表すと、L と C の微分の関係式がかけ算になり、R・L・C をインピーダンスとして同じ形で扱える。(第8〜9回)
- その結果、直流回路の公式と定理が、すべて交流回路に使える。(第10〜13回)
交流回路の計算手順は、どの問題でも共通です。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| ① フェーザに直す | \(\sqrt{2}V\sin(\omega t + \theta) \to V\angle\theta\) |
| ② インピーダンスに直す | \(R \to R\)、\(L \to j\omega L\)、\(C \to \dfrac{1}{j\omega C}\) |
| ③ 直流と同じ方法で解く | 合成、分圧・分流、網目電流法、諸定理 |
| ④ 結果を読む | 絶対値が実効値、偏角が位相。電力は \(P = VI\cos\varphi\) |
間違いやすい点¶
最大値と実効値を取り違える
\(v = 141\sin\omega t\) の 141 は最大値です。フェーザの大きさや電力の計算には実効値 \(141/\sqrt{2} = 100\) V を使います。
L と C の位相を逆に覚える
インダクタは電流が遅れ(\(\dot{Z} = +jX_L\))、キャパシタは電流が進みます(\(\dot{Z} = -jX_C\))。インダクタは電流の変化をさまたげるので電流が遅れる、と理由から思い出します。
\(X_C\) の計算で接頭語を外し忘れる
\(C = 100\) μF なら \(100 \times 10^{-6}\) F として代入します。50 Hz での \(X_C\) は \(\dfrac{1}{2\pi \times 50 \times 100 \times 10^{-6}} = 31.8\) Ω です。答えが極端に小さい値になったら、接頭語を確認します。
実効値を単純に足す
直列回路で \(V = V_R + V_L + V_C\) とするのは誤りです。位相が異なるので、フェーザとして足します。大きさは \(V = \sqrt{V_R^2 + (V_L - V_C)^2}\) です。
偏角を求めるとき、象限を確かめない
実部が負の複素数では、電卓の \(\tan^{-1}\) の結果に 180° の補正が必要です。複素平面に点を描いて確かめます。
皮相電力を消費電力として答える
\(VI\) は皮相電力 [VA] です。消費電力(有効電力)は \(VI\cos\varphi\) [W]、または \(I^2 R\) で求めます。
度とラジアンを混ぜる
\(\omega t\) はラジアン、位相は度で書かれていることがよくあります。電卓の角度モードを確認し、\(\sin(\omega t + \theta)\) に数値を代入するときは単位をそろえます。
例題:RL 直列回路を最初から最後まで解く¶
\(R = 40\) Ω の抵抗と \(L = 95.5\) mH のインダクタを直列につなぎ、\(v(t) = 141\sin(100\pi t)\) [V] の電圧をかけます。電流の瞬時値の式と、消費電力を求めます。
① フェーザに直す:最大値 141 V から実効値は 100 V。位相は 0° なので \(\dot{V} = 100\angle 0°\) V。\(\omega = 100\pi = 314\) rad/s(周波数 50 Hz)。
② インピーダンスに直す:\(X_L = \omega L = 314 \times 0.0955 = 30\) Ω。\(\dot{Z} = 40 + j30 = 50\angle 36.9°\) Ω。
③ 解く:\(\dot{I} = \dfrac{100\angle 0°}{50\angle 36.9°} = 2\angle(-36.9°)\) A。
④ 結果を読む:電流の実効値は 2 A、電圧より 36.9° 遅れ。瞬時値の式は
消費電力は \(P = VI\cos\varphi = 100 \times 2 \times \cos 36.9° = 160\) W(\(I^2 R = 2^2 \times 40 = 160\) W でも同じ)。無効電力は \(Q = 100 \times 2 \times \sin 36.9° = 120\) var、皮相電力は 200 VA、力率は 0.8(遅れ)です。
練習問題¶
複素数と正弦波(第8回)¶
リアクタンスとインピーダンス(第9〜10回)¶
周波数特性(第11回)¶
電力(第12回)¶
直流回路の復習(第1〜6回)¶
説明できるかを確かめる¶
実効値とは何ですか。なぜ最大値ではなく実効値を使うのですか
実効値は、同じ抵抗に加えたときに同じ電力を消費する直流の値です。正弦波では最大値の \(1/\sqrt{2}\) です。実効値を使うと、電力の式が直流と同じ形(\(P = I^2 R\))になり、直流と交流を同じ基準で比べられます。
フェーザとは何ですか。なぜ正弦波を複素数で表せるのですか
フェーザは、正弦波の実効値と位相を 1 個の複素数で表したものです。正弦波は回転する矢印の先端の高さとして表せ、1 つの回路の中ではすべての矢印が同じ速さで回るので、回転を止めた矢印の配置だけで波どうしの関係がすべて決まります。その矢印を複素平面上の点として表したものがフェーザです。
インピーダンスとは何ですか。抵抗との違いは何ですか
インピーダンスは、電圧のフェーザを電流のフェーザで割った複素数で、交流に対する流れにくさを表します。抵抗は電圧と電流の大きさの比だけを表しますが、インピーダンスは大きさの比(絶対値)に加えて、電圧と電流の位相差(偏角)も表します。また、インダクタやキャパシタを含む場合、値が周波数によって変わります。
インダクタで電流が電圧より遅れるのはなぜですか
インダクタの電圧は電流の変化の速さに比例します。正弦波の電流がいちばん急に増えている瞬間(電流が 0 を横切る瞬間)に電圧が最大になり、電流が最大で変化が止まる瞬間に電圧は 0 になります。電圧の山が電流の山より 1/4 周期先に来るので、電流は電圧より 90° 遅れます。
共振とはどのような状態ですか
インダクタのリアクタンスとキャパシタのリアクタンスが等しくなり、互いに打ち消し合う状態です。直列回路では、インピーダンスが抵抗分だけになって最小になり、電流が最大になります。共振周波数は \(f_0 = 1/(2\pi\sqrt{LC})\) で、\(L\) と \(C\) の値だけで決まります。
力率が低いと、なぜ困るのですか
同じ有効電力を送るのに、より大きな電流が必要になるからです。電流が大きいと、送電線の抵抗による損失が増え、電線や変圧器にも大きな容量が必要になります。誘導性の負荷にキャパシタを並列につなぐと、無効電力が打ち消されて力率が改善されます。
直流回路の定理が、交流回路にもそのまま使えるのはなぜですか
定理はすべて、オームの法則とキルヒホッフの法則から導かれています。交流でも、フェーザについて \(\dot{V} = \dot{Z}\dot{I}\) とキルヒホッフの法則が同じ形で成り立つので、そこから導かれる定理も、抵抗をインピーダンスに読みかえた形で成り立ちます。
この先の学習¶
この講義で扱ったのは、正弦波の定常状態です。続く科目では、過渡現象(スイッチを切りかえた直後の変化)、三相交流、相互インダクタンスと変圧器、2端子対回路、ひずみ波交流などが扱われます。どれも、この講義のフェーザとインピーダンスの考え方を土台にしています。計算の途中で迷ったら、公式集と用語集を参照してください。