第13回 交流回路網の解析と諸定理¶
この回の位置づけ
シラバス:交流回路⑥(教科書 第16章 16.1–16.4、第17章 17.1–17.3)。交流回路網の解析(キルヒホッフ電流則、電圧則)、交流回路網の諸定理(重ね合わせの理、テブナンおよびノートン定理など)を学ぶ。
この回の目標:電源が複数ある交流回路について、複素数の連立方程式を立てて解ける。直流で学んだ定理を交流回路に適用できる。
直流回路との対応¶
この回には新しい考え方はありません。第5回と第6回の内容を、次の表に従って読みかえるだけです。
| 直流回路 | 交流回路(フェーザ) |
|---|---|
| 電圧 \(V\)、電流 \(I\)(実数) | 電圧 \(\dot{V}\)、電流 \(\dot{I}\)(複素数) |
| 抵抗 \(R\) | インピーダンス \(\dot{Z}\) |
| コンダクタンス \(G\) | アドミタンス \(\dot{Y}\) |
| オームの法則 \(V = RI\) | \(\dot{V} = \dot{Z}\dot{I}\) |
| 電流則 \(\sum I = 0\) | \(\sum \dot{I} = 0\) |
| 電圧則 \(\sum V = 0\) | \(\sum \dot{V} = 0\) |
読みかえが許されるのは、キルヒホッフの法則がどの瞬間にも成り立っているからです。どの瞬間にも成り立つ関係は、同じ周波数で回転する矢印どうしの関係としても成り立ち、したがって回転を止めたフェーザについても成り立ちます。
交流特有の注意点は 2 つです。
- 電源のフェーザには位相があります。複数の電源があるときは、1 つを基準(0°)にして、ほかの電源の位相をそれに対する差で表します。
- 電流の矢印の向きは、「フェーザをその向きを正として定義する」という約束です。交流では実際の電流は半周期ごとに反転しますが、矢印の向きを決めておかないと位相が決まりません。矢印を逆向きに決めると、フェーザは 180° 回った値になります。
キルヒホッフの法則と網目電流法¶
第5回と同じ形の回路で、抵抗をインピーダンスに、電池を交流電源に置きかえます。
網目電流 \(\dot{I}_1\)、\(\dot{I}_2\) を時計回りに決めると、式の形は直流のときと同じです。
係数が複素数になった連立方程式は、準備2のクラメルの公式で解くと見通しよく計算できます。
数値例(シミュレータの初期設定)
\(\dot{E}_1 = 100\angle 0° = 100\) V、\(\dot{E}_2 = 50\angle(-90°) = -j50\) V、\(\dot{Z}_1 = 10 + j10\) Ω、\(\dot{Z}_2 = 10 - j10\) Ω、\(\dot{Z}_3 = 10\) Ω とします。
分母:\((20 + j10)(20 - j10) - (-10)(-10) = 500 - 100 = 400\)
\(\dot{I}_1\) の分子:\(100 \times (20 - j10) - (-10) \times j50 = 2000 - j1000 + j500 = 2000 - j500\)
\(\dot{I}_2\) の分子:\((20 + j10) \times j50 - 100 \times (-10) = j1000 - 500 + 1000 = 500 + j1000\)
したがって
\(\dot{Z}_3\) を下向きに流れる電流は \(\dot{I}_3 = \dot{I}_1 - \dot{I}_2 = 3.75 - j3.75 = 5.30\angle(-45°)\) A です。
検算として 1 本目の式に代入すると、\((20 + j10)(5 - j1.25) - 10(1.25 + j2.5) = (112.5 + j25) - (12.5 + j25) = 100\) となり、右辺に一致します。
複素数の連立方程式で間違えないために
- 係数と右辺は直交形式でそろえる(足し算と引き算が多いため)。
- \(j \times j = -1\) の符号を、かけ算のたびに確かめる。
- 最後に極形式に直して、大きさと位相を読む。
- 検算は、元の式のどちらか一方に代入して行う。
重ね合わせの理¶
交流回路も、R・L・C と電源だけでできていれば線形回路です。電源を 1 個ずつ働かせて、それぞれのフェーザを足し合わせることができます。働かせない電圧源は短絡、電流源は開放にする点も直流と同じです。
上の例で確かめます。
- \(\dot{E}_1\) だけ:\(\dot{Z}_2\) と \(\dot{Z}_3\) の並列は \(\dfrac{(10 - j10) \times 10}{20 - j10} = 6 - j2\) Ω。全体は \(10 + j10 + 6 - j2 = 16 + j8\) Ω。\(\dot{E}_1\) からの電流は \(\dfrac{100}{16 + j8} = 5 - j2.5\) A。分流して \(\dot{Z}_3\) の分は \((5 - j2.5) \times \dfrac{10 - j10}{20 - j10} = 2.5 - j2.5\) A。
- \(\dot{E}_2\) だけ:\(\dot{Z}_1\) と \(\dot{Z}_3\) の並列は \(\dfrac{(10 + j10) \times 10}{20 + j10} = 6 + j2\) Ω。全体は \(10 - j10 + 6 + j2 = 16 - j8\) Ω。\(\dot{E}_2\) からの電流は \(\dfrac{-j50}{16 - j8} = 1.25 - j2.5\) A。分流して \(\dot{Z}_3\) の分は \((1.25 - j2.5) \times \dfrac{10 + j10}{20 + j10} = 1.25 - j1.25\) A。
- 和:\((2.5 - j2.5) + (1.25 - j1.25) = 3.75 - j3.75\) A。網目電流法の結果と一致します。
周波数の異なる電源がある場合
フェーザどうしを足せるのは、周波数が同じ場合に限ります。周波数の異なる電源を含む回路では、周波数ごとに別々にフェーザで解き、それぞれを瞬時値(時間の式)に戻してから足します。インピーダンスの値も周波数ごとに異なるので、周波数ごとに計算し直します。
テブナンの定理とノートンの定理¶
交流回路を 2 つの端子から見ると、1 個の電圧源 \(\dot{E}_0\) と 1 個のインピーダンス \(\dot{Z}_0\) の直列回路(テブナン等価回路)、または 1 個の電流源 \(\dot{J}_0\) と \(\dot{Z}_0\) の並列回路(ノートン等価回路)に置きかえられます。
- \(\dot{E}_0\):端子を開放したときの電圧
- \(\dot{J}_0\):端子を短絡したときの電流
- \(\dot{Z}_0\):電源の働きを止めて、端子から見たインピーダンス
- 3 つの関係:\(\dot{E}_0 = \dot{Z}_0\,\dot{J}_0\)
負荷 \(\dot{Z}_L\) をつないだときの電流は \(\dot{I} = \dfrac{\dot{E}_0}{\dot{Z}_0 + \dot{Z}_L}\) です。
数値例(シミュレータの初期設定)
\(\dot{E} = 100\) V、\(\dot{Z}_1 = 10 + j20\) Ω、\(\dot{Z}_2 = -j40\) Ω とします。
開放電圧(分圧):
内部インピーダンス(電源を短絡して \(\dot{Z}_1\) と \(\dot{Z}_2\) の並列):
開放電圧の大きさが電源電圧の 100 V より大きくなっています。\(\dot{Z}_1\) の誘導性リアクタンスと \(\dot{Z}_2\) の容量性リアクタンスが部分的に打ち消し合い、共振に近い状態になっているためです。
交流での最大電力¶
第3回で、直流では負荷抵抗を内部抵抗に等しくしたとき、負荷の電力が最大になることを示しました。交流では、条件が次のようになります。
内部インピーダンスを \(\dot{Z}_0 = R_0 + jX_0\) とすると、負荷の電力が最大になるのは
のとき、つまり負荷を内部インピーダンスの 共役 にしたときです。これを 共役整合 と呼びます。リアクタンス分を逆符号にして打ち消し、抵抗分を等しくするという条件です。リアクタンス分が残っていると、その分だけ電流が小さくなり、負荷の抵抗分で消費する電力が減るからです。このときの最大電力は \(P_{\max} = \dfrac{E_0^2}{4R_0}\) です。
負荷に抵抗しか使えない場合は、\(R_L = |\dot{Z}_0|\) のときに電力が最大になります。シミュレータで \(R_L\) を動かし、\(|\dot{Z}_0|\) の値の付近で電力が最大になることを確かめてください。
まとめ¶
- キルヒホッフの法則、網目電流法、重ね合わせの理、テブナン・ノートンの定理は、抵抗をインピーダンスに読みかえれば交流回路にそのまま使える。
- 複数の電源の位相は、1 つを基準にして表す。
- フェーザで足し合わせられるのは、同じ周波数の電源による成分に限る。
- 負荷を内部インピーダンスの共役にしたとき、負荷の電力が最大になる。
練習¶
複素数の計算に不安がある場合は、第8回の複素数電卓で検算しながら進めてください。
確認:上の網目電流法の数値例で、\(\dot{Z}_3\) が消費する電力は何 W ですか
\(\dot{Z}_3 = 10\) Ω は抵抗で、流れる電流の実効値は \(|\dot{I}_3| = 5.30\) A です。\(P = I^2 R = 5.30^2 \times 10 = 281\) W。電力の計算では、フェーザの大きさ(実効値)だけを使います。