第12回 交流の電力¶
この回の位置づけ
シラバス:交流回路⑤(教科書 第15章 15.1–15.4)。交流電圧、電流の瞬時値と実効値の関係、有効・無効電力、力率を学んだ後、皮相電力とその計算法について学ぶ。
必要な準備:第1回の電力、第8回の実効値、第10回のインピーダンス三角形
この回の目標:有効電力・無効電力・皮相電力・力率の意味を説明でき、電圧・電流・位相差から計算できる。
瞬時電力¶
直流では、電力は \(P = VI\) で一定でした。交流では電圧も電流も刻々と変化するので、電力も変化します。ある瞬間の電力を 瞬時電力 と呼び、その瞬間の電圧と電流の積で表します。
電圧を \(v = \sqrt{2}V\sin\omega t\)、電流を \(i = \sqrt{2}I\sin(\omega t - \varphi)\) とします。\(\varphi\)(ファイ)は、電流が電圧より遅れている角度です。積を計算して整理すると
となります。第 1 項は時間によらない一定値、第 2 項は電源の 2 倍の周波数で振動し、平均すると 0 になる成分です。
位相差 \(\varphi\) のスライダを動かして、塗られた部分(瞬時電力)の形を見てください。
- \(\varphi = 0°\)(抵抗だけ):瞬時電力は常に 0 以上です。エネルギーは電源から負荷へ一方的に流れます。
- \(\varphi = \pm 90°\)(インダクタだけ、またはキャパシタだけ):正の面積と負の面積が等しくなります。電源から受け取ったエネルギーを、次の 1/4 周期でそっくり電源に返しています。平均すると電力は 0 です。
- その中間:正の面積のほうが大きく、差し引きした分が負荷で消費されます。
瞬時電力が負になるのは、インダクタやキャパシタにためられていたエネルギーが電源に戻る時間帯です。
有効電力¶
瞬時電力を 1 周期にわたって平均した値を 有効電力 と呼びます。単に「電力」「消費電力」といえばこの値です。記号 \(P\)、単位 W で表します。
負荷が実際に熱や光や動力として使う電力です。電圧と電流の実効値をかけただけでは足りず、\(\cos\varphi\) がかかる点が直流との違いです。
皮相電力と力率¶
電圧の実効値と電流の実効値を単純にかけた値を 皮相電力 と呼びます。「皮相」は「見かけ上の」という意味です。記号 \(S\) で表し、有効電力と区別するために単位は VA(ボルトアンペア)を使います。
皮相電力のうち、有効電力になる割合を 力率 と呼びます。
力率は 0 から 1 の値をとり、百分率で表すこともあります。抵抗だけの負荷は力率 1、インダクタやキャパシタだけの負荷は力率 0 です。\(\varphi\) はインピーダンスの偏角と同じ角度なので、\(\dot{Z} = R + jX\) の負荷では
です。電流が電圧より遅れている場合を 遅れ力率、進んでいる場合を 進み力率 と呼んで区別します。
無効電力¶
電源と負荷の間を行き来するだけで、消費されない電力の大きさを 無効電力 と呼びます。記号 \(Q\)、単位 var(バール)で表します。
インダクタやキャパシタが、エネルギーをためては返すことで生じる電力です。
たとえ:ジョッキのビールと泡
ジョッキの容量が皮相電力、ビールの液体が有効電力、泡が無効電力にあたります。飲めるのは液体だけですが、ジョッキは泡の分も含めた大きさが必要です。泡が多い(力率が低い)と、同じ量の液体を運ぶのに大きなジョッキが要ります。
送電線や変圧器は、有効電力だけでなく無効電力の分の電流も流せる太さ・容量が必要になります。機器の容量が W ではなく VA で表示されるのはこのためです。
ただし、ジョッキの絵では液体と泡を単純に足すと全体になりますが、電力では次に示すように直角三角形の関係になります。
電力の三角形¶
3 つの電力の間には、次の関係があります。
これは、底辺 \(P\)、高さ \(Q\)、斜辺 \(S\) の直角三角形の関係で、電力の三角形 と呼びます(シミュレータの右側)。第10回のインピーダンス三角形(底辺 \(R\)、高さ \(X\)、斜辺 \(|\dot{Z}|\))の各辺に \(I^2\) をかけたものになっています。
\(P = I^2 R\) は、電力を消費するのが抵抗分だけであることを表しています。
| 電力 | 式 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 有効電力 \(P\) | \(VI\cos\varphi = I^2 R\) | W | 負荷が実際に消費する電力 |
| 無効電力 \(Q\) | \(VI\sin\varphi = I^2 X\) | var | 電源と負荷の間を往復する電力 |
| 皮相電力 \(S\) | \(VI = \sqrt{P^2 + Q^2}\) | VA | 電圧と電流の実効値の積 |
数値例
\(\dot{Z} = 6 + j8\) Ω の負荷に、実効値 100 V の電圧をかけます。
- \(|\dot{Z}| = \sqrt{6^2 + 8^2} = 10\) Ω、\(I = 100 \div 10 = 10\) A
- 力率 \(\cos\varphi = 6/10 = 0.6\)(遅れ)、\(\sin\varphi = 8/10 = 0.8\)
- \(S = 100 \times 10 = 1000\) VA
- \(P = 1000 \times 0.6 = 600\) W(\(I^2 R = 10^2 \times 6 = 600\) W でも同じ)
- \(Q = 1000 \times 0.8 = 800\) var(\(I^2 X = 10^2 \times 8 = 800\) var でも同じ)
複素電力¶
フェーザから電力を直接計算する方法があります。電圧のフェーザ \(\dot{V}\) と、電流のフェーザの共役 \(\overline{I}\) をかけると、実部が有効電力、虚部が無効電力になります。
これを 複素電力 と呼びます。この定義では、遅れ(誘導性)の無効電力が正になります。
\(\dot{V}\dot{I}\) ではない理由
共役をとらずに \(\dot{V}\dot{I}\) を計算すると、角度が足し算されてしまい、電圧と電流の位相「差」が得られません。共役をとることで電流の角度の符号が反転し、かけ算の結果の角度が \(\theta_V - \theta_I = \varphi\) になります。
なお、\(\overline{V}\,\dot{I}\) と定義して進みの無効電力を正とする流儀もあります。無効電力の符号の約束は、使用する教科書の定義を確認してください。
力率の改善¶
工場のモーターなど、多くの負荷は誘導性で、力率が 1 より低くなります。力率が低いと、同じ有効電力を送るのに大きな電流が必要です。\(P = VI\cos\varphi\) から \(I = \dfrac{P}{V\cos\varphi}\) なので、力率が 0.5 なら電流は力率 1 のときの 2 倍になります。電流が大きいと、送電線の抵抗で失われる電力(\(I^2 R\))が増えます。
誘導性の負荷にキャパシタを並列につなぐと、キャパシタの進みの無効電力が負荷の遅れの無効電力を打ち消し、電源から見た力率を 1 に近づけられます。これを 力率の改善 と呼びます。
キャパシタの無効電力 \(Q_C\) を増やしていくと、有効電力 \(P\) は変わらないまま、皮相電力と電流が減っていきます。負荷が必要とする無効電力を、遠くの電源からではなく、すぐ隣に置いたキャパシタとの間でやり取りさせるしくみです。入れすぎると、今度は進みの無効電力が残り、電流は再び増えます。
まとめ¶
- 有効電力 \(P = VI\cos\varphi\) [W]:実際に消費する電力。抵抗分だけが消費する(\(P = I^2 R\))。
- 無効電力 \(Q = VI\sin\varphi\) [var]:電源との間を往復するだけの電力。
- 皮相電力 \(S = VI\) [VA]。\(S^2 = P^2 + Q^2\)。
- 力率 \(\cos\varphi = P/S = R/|\dot{Z}|\)。
- 誘導性負荷にキャパシタを並列につなぐと力率が改善され、電源の電流が減る。