第10回 RLC の直列・並列¶
この回の位置づけ
シラバス:交流回路③(教科書 第11章 11.1、11.4、第12章 12.1–12.3)。交流回路素子(抵抗、インダクタ、キャパシタンス)の直列接続、並列接続、交流回路の複素計算法による定常解析を学ぶ。
この回の目標:R・L・C を直列または並列につないだ回路の合成インピーダンス、電流、各素子の電圧を、複素数で計算できる。結果をフェーザ図に描ける。
複素計算法(記号解析法)の手順¶
第9回で、交流でも \(\dot{V} = \dot{Z}\dot{I}\) というオームの法則が成り立つことを示しました。キルヒホッフの法則も、フェーザについてそのまま成り立ちます。したがって、直流回路で使った公式は、抵抗をインピーダンスに、数を複素数に読みかえれば、すべて交流回路に使えます。 この計算方法を複素計算法(記号解析法)と呼びます。
手順は次のとおりです。
- 電源の正弦波をフェーザに直す(基準にする電源の位相を 0° とする)。
- 各素子をインピーダンスに直す(\(R\)、\(j\omega L\)、\(1/(j\omega C)\))。
- 直流回路と同じ方法で、複素数のまま計算する。
- 得られたフェーザから、実効値(絶対値)と位相(偏角)を読み取る。必要なら瞬時値の式に戻す。
翻訳にたとえると、正弦波の世界の問題を複素数の世界に翻訳し、そこで簡単な計算をして、答えを正弦波の世界に翻訳し直すという流れです。
RLC 直列回路¶
抵抗 \(R\)、インダクタ \(L\)、キャパシタ \(C\) を直列につなぎます。直列なので、3 つの素子に同じ電流 \(\dot{I}\) が流れます。合成インピーダンスは、直流の直列抵抗と同じく足し算です。
左の図は、インピーダンスを複素平面に描いたものです。右向きに \(R\)、上向きに \(jX_L\)、下向きに \(-jX_C\) をつなぐと、原点からの矢印が \(\dot{Z}\) になります。\(X_L\) と \(X_C\) は逆向きなので、打ち消し合います。
極形式に直すと、大きさと角度が求まります。
これは、底辺 \(R\)、高さ \(X_L - X_C\) の直角三角形の斜辺と角度です。この三角形を インピーダンス三角形 と呼びます。
\(\theta\) は電圧が電流よりどれだけ進んでいるかを表し、回路の性質は次の 3 通りに分かれます。
| 条件 | \(\theta\) | 性質 |
|---|---|---|
| \(X_L > X_C\) | 正 | 誘導性:電流が電圧より遅れる |
| \(X_L < X_C\) | 負 | 容量性:電流が電圧より進む |
| \(X_L = X_C\) | 0 | 抵抗だけの回路と同じ(共振、第11回) |
周波数のスライダを動かすと、\(X_L\) と \(X_C\) の大きさが入れかわり、回路が容量性から誘導性に変わることを確かめてください。
電圧のフェーザ図¶
右の図は、各素子の電圧のフェーザです。電流 \(\dot{I}\) が 3 つの素子に共通なので、電流を基準(右向き)にして描いています。
- \(\dot{V}_R = R\dot{I}\):電流と同じ向き
- \(\dot{V}_L = jX_L\dot{I}\):電流より 90° 進んだ向き(上)
- \(\dot{V}_C = -jX_C\dot{I}\):電流より 90° 遅れた向き(下)
電源電圧は、キルヒホッフの電圧則から 3 つの和です。
実効値をそのまま足してはいけない
電圧計で測った \(V_R\)、\(V_L\)、\(V_C\) の値を足しても、電源電圧にはなりません。3 つの電圧は山の来るタイミングがずれているからです。足し合わせは、向きを含めた矢印(フェーザ)として行います。大きさについては
が成り立ちます。\(L\) と \(C\) の値によっては、\(V_L\) や \(V_C\) が電源電圧より大きくなることもあります。
数値例
\(R = 30\) Ω、\(L = 0.2\) H、\(C = 100\) μF の直列回路に、50 Hz、100 V の電圧をかけます(シミュレータの初期設定)。
- \(X_L = 2\pi \times 50 \times 0.2 = 62.8\) Ω、\(X_C = \dfrac{1}{2\pi \times 50 \times 100 \times 10^{-6}} = 31.8\) Ω
- \(\dot{Z} = 30 + j(62.8 - 31.8) = 30 + j31.0 = 43.1\angle 45.9°\) Ω(誘導性)
- 電圧を基準にすると \(\dot{I} = \dfrac{100\angle 0°}{43.1\angle 45.9°} = 2.32\angle(-45.9°)\) A
- \(V_R = 30 \times 2.32 = 69.6\) V、\(V_L = 62.8 \times 2.32 = 146\) V、\(V_C = 31.8 \times 2.32 = 73.8\) V
\(V_L\) は電源電圧の 100 V を超えています。検算すると \(\sqrt{69.6^2 + (146 - 73.8)^2} = 100\) V です。
RLC 並列回路¶
3 つの素子を並列につなぐと、すべての素子に同じ電圧 \(\dot{V}\) がかかります。直流の並列回路でコンダクタンスを足したのと同じく、アドミタンスを足します。
ここで \(G = 1/R\)、\(B_C = \omega C\)、\(B_L = 1/(\omega L)\) です。
並列回路では、電圧 \(\dot{V}\) が共通なので、電圧を基準にしてフェーザ図を描きます。
- \(\dot{I}_R = G\dot{V}\):電圧と同じ向き
- \(\dot{I}_C = jB_C\dot{V}\):電圧より 90° 進んだ向き(上)
- \(\dot{I}_L = -jB_L\dot{V}\):電圧より 90° 遅れた向き(下)
全体の電流は、キルヒホッフの電流則から \(\dot{I} = \dot{I}_R + \dot{I}_L + \dot{I}_C = \dot{Y}\dot{V}\) で、大きさは
です。並列回路では、\(B_C > B_L\) のとき(キャパシタに多く流れるとき)に容量性、\(B_C < B_L\) のときに誘導性になります。
直列と並列の対応¶
直列回路と並列回路の式は、次の入れかえによって互いに移り変わります。
| 直列回路 | 並列回路 |
|---|---|
| 電流が共通 | 電圧が共通 |
| インピーダンス \(\dot{Z}\) を足す | アドミタンス \(\dot{Y}\) を足す |
| \(\dot{Z} = R + j(X_L - X_C)\) | \(\dot{Y} = G + j(B_C - B_L)\) |
| 電圧のフェーザを足す | 電流のフェーザを足す |
| フェーザ図は電流を基準に描く | フェーザ図は電圧を基準に描く |
片方を理解していれば、もう片方は入れかえによって得られます。
フェーザ図の描き方¶
- 基準を決める。 直列回路なら電流、並列回路なら電圧を右向き(0°)に描きます。すべての素子に共通な量を基準にすると、各素子の矢印の向きが「同じ向き・上・下」の 3 通りに決まります。
- 各素子の矢印を描く。 抵抗は基準と同じ向き、あとは 90° 進みか遅れです。
- 矢印をつなぎ合わせて和を作る。 原点から終点への矢印が全体の電圧(または電流)です。
- 角度を読む。 全体の矢印と基準の矢印の間の角度が、電圧と電流の位相差です。
まとめ¶
- 交流回路は、素子をインピーダンスに置きかえれば、直流回路と同じ方法で計算できる。
- RLC 直列:\(\dot{Z} = R + j(X_L - X_C)\)、\(|\dot{Z}| = \sqrt{R^2 + (X_L - X_C)^2}\)。
- RLC 並列:\(\dot{Y} = G + j(B_C - B_L)\)。
- 各素子の電圧(電流)は位相が異なるので、実効値の単純な和は全体の値にならない。フェーザとして足す。